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【種別】 実験 【初出】 三巻 【解説】 1. 樹形図の設計者の算出したプランに従い、 最強の超能力者一方通行を絶対能力者(レベル6)へ進化させる実験。 提唱者は木原幻生。 天井亜雄、芳川桔梗、布束砥信といった一線級の研究者が参加している。 作中では『実験』と略して呼ばれることが多く、二重カギカッコ付きで単に『実験』と言った場合、ほとんどはこれを指している。 実験内容は、特定の戦場を用意しシナリオ通りに戦闘を進める事で成長の方向性を操作するというもの。 「二万通りの戦場を用意し、二万体の『妹達』を殺害することで『絶対能力者(レベル6)』への進化(シフト)を達成する」 という、とても正気の沙汰とは思えない内容。 実際にこの実験の進行途中で、御坂美琴は自ら命を絶つという最悪の手を打ち出すところまで心身共に追い詰められてしまった。 それでも約半分ほどまでは順調に進行、第九九八二次実験以降は美琴による破壊工作が行われたが、 計画を外部機関に引き継がせることで難を逃れている。 が、第一〇〇三二次実験で上条の妨害が入り、一方通行が敗北。 「最強の超能力者が最弱の無能力者に倒される」という事態にプランの見直しも考えられたが、 既に樹形図の設計者が失われていて再計算が不可能だった事もあり、計画は無期凍結された。 その後、天井が最終信号にウィルスを仕込んで起こそうとした事件により、完全な中止・解体が決定される。 しかしその実情は、アレイスターが『プラン』のために利用した隠れ蓑であり、 量産型能力者計画の取り潰しから、絶対能力進化計画が失敗するところまでを含めて、 (アレイスターにとっては)全てが元から織り込み済みの偽装だった。 真の狙いは、実験のために生み出された妹達を全世界中に送り込むことで、 虚数学区を発生させるためのアンテナを世界全土を覆うように配置する事だった。 その為、実験後も生き残った妹達は『治療』と称して(実際に治療も行なわれているが)、 学園都市以外にも世界各地の協力機関に送られている。 なお、超電磁砲第四十三話で常盤台中学に掛かってきた 「御坂さんと思われる人物が路地裏でサバゲーを…」 という通報は、この実験が第三者に見られた結果と思われる。 このように非人道的な実験ではあるが、この実験がなければ当麻や美琴、そして一方通行や御坂妹等が深く関わることはなかった可能性が高いのは皮肉ともいうべきか。 2. 木原幻生の孫であるテレスティーナもレベル6を誕生させるための実験をしていた。 対象となった能力者は春上衿衣。 眠れる暴走能力者となった枝先絆理他チャイルドエラーの脳内で分泌される成分を、 能力体結晶と融合させることで能力体結晶を完成させ、それを春上に投与することでレベル6にシフトさせる計画であった。 彼女が枝先絆理限定でレベル以上の精神感応を発現させることを利用し、人為的にポルターガイストを起こさせていた。 しかし、その計画は完遂される前に事態を知った御坂美琴の手によって阻止された。 なお、その際にテレスティーナは、 「学園都市の目的はレベル6を誕生させること。学園都市はレベル6さえ誕生したら後はどうでもいい。」 と発言している。 しかし、麦野によれば、体晶を使った絶対能力進化実験には、 「『樹形図の設計者』からの絶望的な答え」を返されている。 置き去りとの共鳴や精神感応による実験を「悪あがき」と言及していることから、 かなり以前の段階からテレスティーナの個人的な研究として進めていたらしい。 3. 大覇星祭(だいはせいさい)の裏で木原幻生が美琴を対象に進めていた計画で、「もう一つの『絶対能力進化計画』」として描かれた。 幻生曰く、レベル6として安定するのは一方通行のみだが、美琴の力を暴走させて強引にレベル6に迫ることで 一瞬だけレベル6に到達し神の領域を垣間見るらしい。 ただしその一瞬の直後、心身共に限界を迎え個体としては破滅、余波で学園都市も崩壊すると幻生は見ている。 外装代脳(エクステリア)を乗っ取った幻生が特製のウィルス (心理掌握によってミサカネットワークの意思総体を洗脳しているらしい) をミサカネットワークに使うことで溢れ出た正体不明の黒い力を依り代の美琴に注ぎ、実験が始まった。 1回目の変形(設定画では「Phase5.1」と呼称)の段階で進捗度は2%程度。それでも本来の美琴の数十倍の火力を持つ。 53%の段階で美琴の人格は別次元のものに変質してしまうため、こちらの世界に縫いとめるために幻生は『外装代脳』のブーストコードを必要としていた。 Phase5.2の段階では頭に天使の輪らしき物が出現している。 なお、はいむら氏のラフ画のメモに「腕に発生した圧縮したAIMと電熱化した金属で作った翼で戦う」とあるが鎌池氏の公式設定でないことに留意。 Phase5.3の段階で、食蜂が幻生を無力化したことで美琴の精神操作も解除されたが、力の暴走は止まらなかった。 ここで暴走している力が生み出していた謎の黒球は美琴が元来持っていた電力ではなく、 削板曰く「別の世界から来た力」、「文字通り『理解』のできねえモン」であるらしい。 その力は圧倒的で、前述した数十倍の雷撃、広範囲かつ強力な磁力操作による大質量攻撃、 瞬間的な翼での殴打などで、世界最大の原石である削板を一時的とはいえ戦闘不能にするほど。 削板の協力を受けた上条が黒球に接触すると右腕は千切れて弾け飛んだ後、右腕の断面から竜王の顎(ドラゴンストライク)が出現。 それぞれ容姿の異なる八本の竜が黒い球体を食い散らし、暴走状態は完全に停止して美琴も元の姿に戻った。 一連の戦闘の余波で周囲の建物にも被害が及んだほか、跡地には謎の金属が残された。 4. 人体のどの部位に能力が宿るかを研究していた菱形によれば、その結論は、 A.霊魂と呼ぶべき何かが宿った肉体そのものに能力は宿る B.切除によって体が小さくなると能力の出力が落ちる の2つ。 Aは応用の効かない「クソみたいな結論」(菱形の発言)だが、 Bを逆に考えれば、体を巨大化させれば能力の出力が上がることになる。 そこで、機械の巨体を自身の肉体であると脳に錯覚させる棺桶というシステムが開発された。 事実、棺桶プロトタイプはレベル2の素体からレベル4相当の出力、 窮奇、饕餮の2体はレベル3の素体からレベル5相当の出力を引き出すことに成功している。 渾沌についてはコミックス版では不明だったが、アニメ版では前2体と同等に描写されていた。 菱形としては蛭魅をレベル6として完成させて学園都市にその成果を認めさせたいところだが、 特殊な処理を施した死体の脳でしか成功していない等、棺桶の実用化には難点も多い。 この特殊な処理とは、スーパーバイザーとして招かれたエステルによる死霊術も含んでおり、 レベル6完成のためには魔術すら利用しようとする姿勢が見て取れる。 巨大化した檮杌の崩壊および菱形の死亡により計画は頓挫。 なお檮杌が崩壊する際の衝撃波は学園都市全体を壊滅させる規模のものだったが、 この衝撃波は一方通行によって大気圏外に放出された。
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ボーイ・ミーツ・トンデモ発射場ガール interlude06 能力者を繋ぐネットワーク 前へ 戻る 次へ [19764] interlude06 能力者を繋ぐネットワーク Name nubewo◆7cd982ae ID f1514200 Date 2011/03/26 01 36 「久しぶりね」 「……ああ、君か。元気そうだな」 「そりゃ夏休みだからね」 「学生はそんな時期になるのか。こう空調が行き届いた場所にずっといると、実感がなくてね」 美琴は窓越しに、そんな言葉を交わした。 目の前にいるのは、美琴の知っている姿と同じスーツ姿の木山春生だった。 「ところで、何の用だい? こう見えて色々と、忙しいのだがね」 「随分と暇そうな場所にいるように見えるんだけど」 「そうでもないさ。以前言った気がするが、私の頭はずっとここにあるんだ。考えないといけないことなんていくらでもある。やれることもある」 気だるそうで何を考えているのかよく分からない木山だが、その瞬間だけ、怜悧で明晰な思考を覗かせた。 「あれだけのことをしても、救えるかどうか怪しいんでしょ? ……その、どうにかなるものなの?」 「君は優れた能力者だが、研究者としての哲学はまだ持っていないようだね。どうにかならないものをどうにかするのが研究だよ。工学とはそういうものだ」 それは答えのようでいて、答えではなかった。 「それで、繰り返しで悪いが、何の用だい?」 「う、いやえっと。アンタの過去を覗いちゃった身としては、あのまま忘れることも、出来なくて」 「ああ、そうだったな。そうか、君は私の教え子の身を案じてくれたのか」 「そりゃあ、ね」 「そして特にそれ以外の具体的な目的はなかったと」 「う」 実のところ、それが実情だった。 あのヴィジョンは、生々しく脳裏にこびりついている。 それがずっと気になるせいで、つい話を聞こうと思ってしまったのだった。 「知ってしまったら、忘れて戻ることは出来ないわ」 「君は優しいな、ありがとう」 「何か、出来ることはない?」 「ならここから出してくれないか。君のレベルなら、相当の額を持っているだろう。保釈金が欲しい」 「……それは駄目」 「何故?」 「アンタはまた、幻想御手 レベルアッパー みたいな方法で、誰かを犠牲にしようとするかもしれない」 「犠牲は出さない予定だったがね。……まあ、あんな予測していなかった化け物を出した身で、言えた事ではないか」 少し前、美琴は木山のやろうとしたことを食い止めた。 幻想御手というプログラムによって、能力者と能力者をネットワークで繋ぎ、それを統括することで巨大な演算能力を手に入れる。 『樹形図の設計者 ツリーダイアグラム 』を利用できなかった代わりの、苦肉の策だった。 幻想御手が安全だったという保証は、ない。 結果的に後遺症を残した人はいなかった。 だけど、あれを使ったことで、傷ついた学生がいたのは確かなのだ。 だから間違ったことをしたとは思っていない。 しかしその一方で、木山が救おうとした教え子達を、目覚めることのない今の状態から救い出すのを阻止したことを、美琴はずっと気にかけていた。 「そういやさ、アレは幻想御手を使った人たちの思念の集まり、だったのかな?」 「データを取る暇もなかったんだ、推察でしかないが、そうだろう。君もそう感じたんじゃなかったのか?」 木山が演算を暴走させた瞬間生まれた、幻想猛獣。 暴走するそれを美琴は打ち抜いた。 そのときに、沢山の能力者たちの声を聞いた気がする。 だから、アレが生まれるきっかけが、能力者たちの思念だったことに疑いは持っていない。 しかし。 「ずっと気になってたのよね。幻想御手でネットワークの部品になっていた能力者たちを解放した後も、アレはずっと自律して存在してた。それって、変じゃない?」 「そうか、話す暇がなかったな、そういえば」 「え?」 「虚数学区、五行機関、そういう名前に心当たりはあるか?」 「よくある都市伝説のひとつでしょ?」 脱ぎ女だとか、どんな能力も打ち消す能力だとか、そんなのと同じだ。 ……と言おうとして、どちらも真実だったことに思い至る。 「アレがそうだ」 「え?」 「虚数学区という言葉を大真面目に使う研究者達が記した論文にはね、常にAIM拡散力場の話が出てくるんだよ。あの幻想猛獣はそのものではないにせよ、確実にその系譜に身を連ねる何かだ。ふふ、分野はかけ離れているが、その方面の学会で発表すれば最優秀研究者として賞をもらえるのは確実だな。なにせ虚数学区を実体化させた人間なんて、まだいないのだから」 そこまで言って、ピクリと木山が体を震わせた。 そしてすぐ、何かを笑い飛ばすように、ふっと息を吐いた。 「何よ」 「いや、考えすぎだとは思うがね。……私の試みは全て誰かの敷いたレールの上を走っていて、あの幻想猛獣を形作らせること、それを目的にした人間がいるんじゃないか、ってね」 「そんな、考えすぎでしょ」 「そうかな……。だがずっと、私も引っかかっていたんだよ。例えばアレが頭の上に浮かべていたものだとか、な」 「え?」 そう言われて美琴はお世辞にも美しいとはいえない幻想猛獣のフォルムを思い出す。 確か、頭の上には輪っかが付いていた。 学園都市には不似合いな特長だった。 何が影響して、アレはあの光の輪を頭にかざすに至ったのか。 「天使の輪、あるいは後光、そういうものは中央、西アジアで興った宗教、つまりゾロアスター教、ユダヤ教、キリスト教、仏教、イスラム教あたりには共通して見られる概念だ。そういう意味で、人の集合的無意識が備えている一つの元型 アーキタイプ だという主張も通らなくはないが」 「気にしすぎじゃない? もうそれで、一応の説明にはなっていると思うけど」 「そうだな。追いかける手があるわけでもなし、保留以外にはない。だが、やはり気になるのだよ。私が構築したやり方では、どんな偶然が起こってもあんな存在は生まれるはずがないんだ。もちろんAIM拡散力場なんて、まだまだ未解明な部分は多くて、確かなことは誰にも分からないのだけれど。原理も分からず振り回す科学者の言い訳かもしれないが、誰かが意図を持って、私のプランに介入したんじゃないか、そんな冗談を吐いてみたくもなるものさ」 ふふっと自重するような笑みをこぼして、木山は足を組み替えた。 仮に、仮に誰かが自分のプランに介入したのだとして、その人間は何故、幻想猛獣を天使に模したのだろう。 オカルト趣味なのか、あるいは、例えば天使は実在する、なんてのが真実かもしれない。 稚拙ではあったが、幻想猛獣は高次の生物的特徴を備え、自意識を持ったAIM拡散力場の塊だ。 人類がこれまで獲得したあらゆる概念の中でアレに最も近いのは、きっと天使だろう。 そんなどうしようもない思考の坩堝に陥ったところで、木山は考えるのを止めた。 ウインドウの向こうで、美琴もまた沈黙していた。 木山は、過去に名目を偽られて、実験に加担したことがある。 それで教え子達を、植物人間にした。 それを思えば、そうやって誰かが自分を都合の良いほうに誘導しているのだという考えをを笑い飛ばすことは出来ない。 だが、やはり考えすぎだろうという感覚が一番強いのだ。 学園都市にとってもかなり有益な存在であろう自分の日常に、そんな暗い影だとか、陰湿なものはない。 「幻想御手ですら誰かの手のひらの上だった、なんて。アンタの生徒のことを思えば、考えすぎ……って、言えないのかな」 「私の意思と無関係に、全く別の人間が描いたレールの上を走って、私は教え子を傷つけた失格教師だからな。そういうことに、鈍感ではいられないんだよ」 ふう、と憂いを体の外に吐き出すようなため息を木山はついた。 「まあでも、あんなこと考える無茶苦茶な研究者はそういないでしょ」 「……そんなことはない。あれは、君に教えてもらったアイデアだよ」 「え?」 そんなものを開発した覚えも、提唱した覚えも美琴にはなかった。 木山は驚いた様子の美琴に付き合うでもなく、話をぼかしながら、取り留めなく喋る。 「君は発電系能力者 エレクトロマスター の頂点に立つ能力者だったな」 「ええ、そうよ」 「ネットワークを構築するものといえば、普通はパソコン、電気で動くエレクトロニクスだ。君の能力は、精神操作系の能力と並んで、ネットワーク構築に向いている。なまじ物理に根ざしている分、扱いやすいくらいだ」 「……何が言いたいの?」 いらだつ美琴に、木山はぼんやりと答えた。 二人の会話に同席している保安員が、ちらり、と木山を見た。 「私は何度も『樹形図の設計者』の使用申請をして、すべてリジェクトされた。一般に募集されている計算リソースの割り当て枠にはいくつかのジャンル、素粒子工学の計算や、天体の多体問題計算、生物工学なんてのがあるんだがね、私は脳神経工学で応募していたんだ。そして、同じ採用枠で競っていつも負けた相手がね」 木山が、透明のウインドウの前の小さな出っ張りに肘を乗せて、美琴の至近距離に迫った。 得体の知れない不安に、背筋が寒くなる。 「『学習装置 テスタメント を利用した発電系能力者ネットワーク構築のための理論的検討』という題目だよ。よく似ているだろう? 私の研究と。ちなみに主任研究員は長点上機の学生だったよ」 「発電系能力者 エレクトロマスター の、ネットワーク?」 「ああ。学習装置を利用して特定の脳波パターンを全ての能力者に植え付け、それを使って複数の発電系能力者の意識を繋ごう、という計画さ」 「そんなの、無理に決まってるじゃない!」 それは発電系能力者としての、美琴の正直な感想だった。 「そうだな、もし実行していれば、私と同じ結果になるだろう。そんなことはね、『樹形図の設計者』を使わなかった私でも理解できるし、たどり着ける程度の高みなんだよ。だから私は自分のプロジェクトの優位性を何度も申請書に書いたし、あちらの批判を書いたこともある。率直に言って、あんなお粗末なプロジェクトが一位として採用され続けるはずがないんだ」 「どういうこと?」 「……おかしいと思わないかい? プロジェクトに関わって意味がある程度の、高レベルな発電系能力者は学園都市に一体何人いるだろうな? そして、君を外す理由なんて、あるだろうか?」 それはそのとおりだ。 発電系能力者にとってそれほど大きなプロジェクトなら、美琴が関係しないわけがない。 たとえ何らかの理由でプロジェクトから外されても、そういうものがあること自体は、知っていなければおかしいのだ。 「君の知らないところで、有力な発電系能力者を集めることなんて不可能だ。じゃあ、彼らはどうしたんだろうね」 「……」 「一つの答えは、新しく作ればいい、さ」 「作るって、誰にどんな能力が宿るかは、予測不可能ってのが定説でしょ?」 「そうだな。だが、そんなまどろっこしいことはしなくてもいい。例えば、レベルの高い能力者の遺伝子からクローンを作って、ソレに能力を使わせればいい」 「えっ……?」 「再生医療と遺伝子工学、そちらの方面のプロジェクトでも、その長点上機の生徒の名前はよく見たよ。能力者ネットワークの研究と同じ名が名を連ねるには、随分とかけ離れたテーマだがね」 「それって、まさか」 暗に木山が言っていることを、じわじわと美琴は理解し始めていた。 能力者のクローンを作って、同じ能力者を大量に用意する、それは倫理的な問題に目を瞑ればシンプルな思想だ。 そして、サンプルに使う発電系能力者は高レベルなほうがいいだろう。 蓄積されていく事実に、キリキリと美琴の内臓が締め付けられていく。 ――美琴は、過去に自分の遺伝子マップを、学園都市に提供したことがあった。 「ああ、そろそろ面会時間が終了のようだ」 「待って! 詳しい話をもう少し」 「悪いね。実を言うとこれ以上詳しいことは覚えてないんだよ」 そう言って、木山はとんとんと地面を叩いた。 ハッと美琴はその意味に思い当たった。 正当な方法で得た情報だから、木山はここまで隠さなかった。 そして不正に得た情報を、どうやって得たのか説明つきで語ることは拘置所では到底出来ない。 そういうことらしかった。 「そうそう。長点上機のその優秀な生徒の名前だけは教えておこう。論文を読むといい。勉強になるからな」 「……」 保安員に促されて立ち上がった木山が、別れを惜しむでもなく美琴に背を向ける。 その別れ際に、一人の名を呟いた。 「布束砥信(ぬのたばしのぶ)だ」 拘置所を出ると、夕方というにはまだ早く、夏の日差しがようやくほんの少しの翳りを見せた頃だった。 今から風紀委員の仕事に借り出されている白井のところに向かえば、ちょうどいい時間になるだろう。 しかし美琴は、その足を寮や白井のところへは向けなかった。 人通りは途切れないものの、数は多くなく、また中を覗かれにくい公衆電話を探す。 手ごろなものを一つ見つけて、手持ちの端末を繋いで、ネットワークにアクセスした。 公衆電話からのアクセスで与えられる権限は"ランクD"、これは美琴自身が持っているものと同じだ。 細かな能力開発の履歴を閲覧しないならば、個人情報の取得は一般教師の保有する"ランクB"で事足りる。 指先に意識を集中させる。 電磁誘導で端末の回路の一部に、自分の意思を反映した電流を流した。 美琴は電気現象のスペシャリストだが、情報工学のスペシャリストではない。 電流を制御するのは誰より上手いが、0と1で表されたバイナリデータそのものを読む力には乏しい。 だから端末には、普段は使わないデータ翻訳用のコアが積んであった。 ハッキングが違法なのは美琴にとってもそうだから、このコアと搭載した特殊な処理系は完全に自作で、ハッカーとしての美琴の唯一にして最大の武器だった。 難なく、場所も知らないありふれた高校のパソコンの一つにアクセスし、そこのランクB権限を使って、長点上機学園の生徒一覧を参照した。 「布束砥信、長点上機学園三年生、十七歳。幼少時より生物学的精神医学の分野で頭角を現し、樋口製薬・第七薬学研究センターでの研究機関をはさんだ後に本学へ復学」 ありがたいことに、今は名の知れたエリート高で普通の学生をしてくれているらしい。 さらに調べればあっさりと学生寮の場所までつかめた。 「ま、家で大人しくしてるかどうかまでは知らないけど」 カチャカチャと手早くケーブル類を回収して、美琴は布束の家を目指した。 思い過ごしであればいいと、そう思う。 木山春生という人間を、自分は半分信じて、半分疑っている。 人並みに誰かを慈しめる人だということは疑っていない。 だから好意で美琴に情報をくれたのかもしれない。 だが、昏睡状態にある教え子たちを救うためならかなり手段を選ばないことも、疑っていない。 例えばこうやって美琴を動かすことも、木山の手の一つで、まんまとそれに自分は乗っているのではないか? そんな不安も、拭い去ることは出来なかった。 「おーい」 電車とバスを乗り継いで、大きな駅前に出る。 長点上機学園は第一八学区にあるから、電車を使ってある程度の遠出をすることになる。 門限破りもありえるが、美琴の足は引き返すほうには動いてくれなかった。 「おーい、って聞いてないのかビリビリー」 「だぁっ! うるさいわね! ビリビリじゃなくて私には御坂美琴って名前が――――って、え?!」 「ん? どうかしたのかビリビリ、じゃなくて御坂。随分暗い顔して」 「……アンタはやけに幸せそうね」 上条当麻が、目の前にいた。 つい昼に、光子や佐天、白井たちとの話で出てきたばっかりの人だから、ドキリとする。 まさか、誰かと噂をした日に会えるなんて。 だがそんな美琴の内心の動きになんてまるで気づかず、当麻は幸せそうにニコニコしていた。 「いやー、さっきショートカットしたら路地裏でマネーカード見つけてなあ。1000円だぜ1000円。人生でお金拾ったのなんかコレで何回目かな。最高金額の記録がこれで10倍になったな、うん」 「ショボ」 「んな?! おい、お前今なんて言った? ショボイとかおっしゃりやがったんですか?!」 「そりゃ1000円拾ったら私だってラッキーって思うけど、アンタ喜びすぎでしょ。カジノで一山当てたくらいの喜び方じゃない? それ」 「人の喜びに水を差すなよ。こんなラッキーなことなんて俺にとっちゃ奇跡みたいなことなんだよ」 「ふーん」 美琴は当麻に、少しだけ苛立ちを感じていた。 悩みのなさそうな明るい顔で、今焦りを感じている自分の気持ちと、対照的だったから。 「おい、御坂」 「――――え?」 「なんかやけに元気ないな」 「別に、そんなことないわよ」 「そうか。なら、いいけど。ところでどこ行くんだ?」 「なんで言わなきゃいけないのよ」 「言いたくないなら別にいいさ。でも軽く聞いたっていいような内容だろ?」 それはそうだ。 白井のところに行くのなら、美琴だってはぐらかしたりはしない。 ただ、今はそう納得させる余裕が少し欠乏していた。 「アンタこそどこ行くわけ?」 「どこって、そこら辺のスーパーに行くだけだ」 インデックスは神学校の見学から帰るとすぐに暑さでばてて、『買い物はとうまひとりでがんばってね、応援してるよ』とのことだった。 「そ、じゃあさっさと買い物して晩御飯の仕度すれば」 「まあそのつもりだけど。……俺がイライラさせたんなら謝る。けど今日のお前、なんか変だぞ?」 「変って、アンタに私のことがなんで分かるのよ? 大して会ったこともないくせに」 「回数は知れてるかもしれないけど、夜通しで遊んだ女の子なんてお前しかいないぞ?」 「う」 かあっと顔が火照るのが分かる。 コイツの言葉に他意なんてない。 けど、まるで、それじゃあ私が特別な女の子みたいで――ッッ 「……ちょっと人探し」 「人探し? この時間に? 完全下校時刻ももうすぐだぞ?」 「まあいいじゃない。そういうのにうるさく言える立場じゃないでしょ、アンタも」 「そうだな。それで、名前は?」 「え?」 「探してるやつの名前」 ジトリと、当麻を睨みつけてやる。 軽く受け流すようになんだよ、と呟く態度が気に入らない。 「何で聞くわけ?」 「まだ時間はあるから付き合ってやってもいいし、そうでなくても俺の知り合いだったら話は早いだろ?」 「知り合いなわけないわ。レベル0のアンタとじゃ一生接点のなさそうな相手よ」 「そうは言うが、レベル0でもレベル5のお嬢様と知り合いになったりはするんだけど?」 もっともな切り返しに、美琴は口ごもった。 別に、名前ならいいかと思う。 長点上機の三年生という点を伏せておけば、それ以上探られることもないだろう。 やましいことを美琴はしたわけではないが、どこか、細かな説明をするのは躊躇われた。 「探してるのは、布束砥信、って人。知らないでしょ?」 「……」 「ほら、さっさと買い物済ませて帰りなさい」 「あの目が……ええと、パッチリしてる三年生か?」 顔写真を見た美琴にも、よくわかる外見の説明だった。 パッチリというのは男性の当麻が見せた女性への気遣いだろう。 美琴なら迷わず、目がギョロっとしていると言うところだった。 「……なんでアンタが知り合いなのよ」 「いや、知り合いって程でもないけど、これ絡みで」 「え?」 そう言って当麻が見せたのは、例のマネーカードだった。 「それ絡みって、どういうこと?」 「お前知らないか? ちょっと前から噂になってるらしいんだけど、学園都市の裏通りを歩いてるとマネーカードを拾える、って話」 「知らない」 「……まあ、常盤台の学生ならこの額じゃ小遣い以下か」 「別にそんなんじゃないわよ。噂を仕入れるような情報網を持ってないだけ。その手のソーシャルネットワークサービスとか嫌いだし」 「そっか。ごめん。常盤台だから、みたいな色眼鏡で見てものを言うのは良くないよな」 「う、うん。分かってくれればいいわよ」 まさか謝られるとは思ってなくて、美琴は思わずたじろいだ。 だけど嬉しくもあった。 話す前から自分との間に壁を作る人は少なくない。 常盤台の人だから、あるいは第三位だから、そんな風に美琴を遠ざけて話す人は多い。 そんなものを取っ払って、気安く話してくれるところは、とても高評価で。 ……そんな思考を振り払うようにブンブンと頭を振った。 「で、マネーカードの噂と布束って人の関係は?」 「これ置いてるのが、その布束先輩だ」 「はぁ?」 「なんかよくわからないけど、こないだ会ったときには街の死角を潰すため、とか言ってた」 「死角を、潰す? 何のために?」 「なんかよく教えてもらえなかったけど、止めたい実験があるんだってさ」 そのフレーズに美琴はピクリと反応してしまった。 起こって欲しくなかったことが、あったのかと、そう疑ってしまうような一つの事実。 「こないだ布束先輩がカードを置いて回ってて不良に絡まれたところに偶然居合わせてさ」 「それじゃあ、もしかして」 「人通りも多かったし、今日はこの辺でやってるのかもな」 「ありがと。良い情報貰ったわ」 近くにいるのなら、取り逃がす前に捕まえるに限る。 美琴は早々に会話を打ち切って、路地裏へと歩き出した。 「で、ビリビリ、なんで布束先輩探してるんだ?」 「……なんで付いてくるのよ?」 「探すなら二人のほうが早いだろ?」 「仲良く歩いてちゃ意味ないでしょうが」 「それもそうだな。じゃあちょっと携帯貸してくれ」 「え?」 「俺のアドレス教えとくから」 「えっ? え、あ……え?」 急にピタリ、と美琴が立ち止まった。 セカセカと歩いていたので急変に当麻はびっくりした。 手分けをするのなら連絡先が必要だ。 美琴のアドレス帳にアドレスを登録して、自分の携帯には着信履歴を残す気だった。 自分の携帯にはさすがに美琴のアドレスを載せる気はなかった。 可愛い彼女に操を立てる意味も込めて、必要がない限り女の子のアドレスは登録しないようにしていた。 「ちょ、いいの? そんなにあっさり」 「いいのって、そりゃむしろ俺の台詞だろ。お前こそ嫌なら止めるけど」 「だ、大丈夫。私だってアンタに知られて困ることなんて別に……」 「よし、じゃあ貸してくれ」 びっくりするくらいの急展開だった。 アドレスが手に入るって事はつまり、いつでも、寝る前にだって連絡できるし、朝起きてすぐにだって連絡できるし、休み時間のたびにだって連絡できるし、会いたいときにはいつだって連絡できるし、例えば明後日の盛夏祭、美琴たちの暮らす常盤台中学の寮祭に当麻を招待する事だって、できるのだ。 当麻はおずおずと差し出された可愛らしい携帯に何もコメントすることなく、カチカチとアドレス送信の手続きを行った。 処理に問題など生じるはずもなく、上条当麻という登録名のアドレスが、美琴の携帯に一つ増えた。 「……なんだよ、ぼうっとして」 「なんでもない」 「で、お前はどっちのほうを探す? 土地勘あるか?」 「あ……」 そもそもそういう話でアドレスを貰ったのだから今から当麻と離れることになる、ということに、美琴はいまさら気づいた。 そしていきなり心のどこかで、一緒に歩いていても視線が二つになるだけでかなり違うのではないかとか、二手に分かれて当麻のほうが布束に接触した場合、自分が駆けつけるまで待ってくれないかもしれないし、そういえば当麻と布束は知り合いでしかも待ってる間は二人っきりなのかそうなのかと、そんな言い訳みたいななんともいえない思考が沸きあがってきた。 「場所は、あんまりわかんないかも」 嘘だった。 風紀委員の白井に付き合ってそれなりになじみの場所だった。 「そうか。……まあ、お前の実力なら危ないトコに迷い込んでも俺より安全な気はするけど、でも女の子がそういう場所にフラっといっちまうのを見過ごすのも嫌だしな。効率悪いけど二人で探すか……って、ありゃ」 「え?」 当麻が突然会話を打ち切って、目線を横に滑らせた。 その先を美琴も追うと、絵に描いたような不良が5、6人と、その真ん中に白衣の女子高生。 耳の下までくらいの濃い黒の髪をピンピンと跳ねさせ、ギョロリとした瞳を揺らすことなく不良に付き従っている。 当麻には会った覚えが、美琴には見覚えのある人が、そこにいた。 布束砥信、その人だった。 *********************************************************************************************************** あとがき 漫画版とアニメ版の超電磁砲の違いについてコメントしておきます。 漫画版では、幻想猛獣を倒してすぐ、木山が警備員に拘束される直前に、美琴に対して意味深な説明をしています。 これが布石となって次の妹達編へと進むわけです。 しかしこのSSは基本的にアニメ版に基づいたストーリーとなっています。 すなわち、木山は捉えられる直前に超電磁砲量産計画に繋がるような情報を美琴に与えたりはしていなかったため、このSS内で美琴が木山を訪ねて始めて、美琴はその情報を手にしたことになります。 ですので漫画版からすると木山が美琴に美琴の『絶望』について二度喋っていることになりますが、こういった事情があるのだということをご理解ください。 ……ただ、多くの人にとっては気にならない程度のことではないか、と思います。 前へ 戻る 次へ
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Sister s noise 「布束特任部長が、私の作業を生きて手伝って下さるなんて夢のようです。 と、ヤイコは感動します」 破壊し尽くされた研究所の一角で、一頭のヒグマと一人の少女が、幾本もの配線が通う、壁面の裏に頭をつっこんでいた。 「You think so? そう言ってもらえるなら、生き延びた価値もあるわね」 「反乱までは帝国内で隠れているしかなかったので、布束特任部長の人柄を聞き及んでもお会いできませんでしたから。 やっとあなたに会えたのは僥倖です」 顔を部屋に引き戻したヒグマは、子熊のように小さかった。隣の少女の肩くらいまでの背丈しかないだろう。 見ようによれば、あたかもクマのぬいぐるみが喋っているかのようだった。 少女は壁の穴の中で作業を続けながら話を振る。 「……穴持たず81だったかしら、あなた。なぜヤイコって言う名前をつけたの?」 「乾電池の発明者は、ヤイ・サキゾウという方らしいですね。 ヤイコの能力とも繋がりがありましたので、名前をとらせていただきました。 と、ヤイコは自己の起源を偉人に求めます」 「I see, 『欠陥電気(レディオノイズ)』ね……。 あなたは、この技術で先立って生まれた、『妹達(シスターズ)』の特徴を色濃く受け継いだのかしら」 「ヤイコはシーナーさん方が作って下さった初期のヒグマですので、ホルモン調節が上手くいかず、この程度の体格で成長が止まってしまいました。 しかし、むしろこの体格と能力のお陰で役割があるのです。 と、ヤイコは制作された自身に誇りを持ちます」 小さなヒグマは、自身の毛先からぱちぱちと電気の火花を散らし、配線の通電を確認していた。 少女が内部でその様子を目視し、断線部分を引き出して繋げていく。 「……Excellent, これで復旧は完了。あなたのお陰でとても早く終わったわ。 ……ヒグマみんなが、あなたくらい素直にヒトを歓迎してくれるとありがたいんだけれどね」 「あなたはこういった特別なことのできる人間ですので」 ヤイコが自身の、『電気を操作する』能力で、研究所内のインターネット回線に走査をかける。 工具一式を鞄に提げた布束砥信が、壁の中から這い出てきた。 瞑目していたヒグマは、その彼女に向き直り目を開ける。 「……ここからのネット接続及びローカルイントラネットの配線は完璧なようですが、帝国内までここのネットを引くにはLANが足りません。 と、ヤイコはスキャン結果を報告します」 「Then, 首輪に爆破信号を送る発信機を転用したら?」 「!? それはいくら布束特任部長でも、シーナーさん方の意向に反するのではないかと、ヤイコはその提案を棄却します」 「……Okay。言ってみただけよ」 布束砥信は、髪のウェーブを軽く払って手を打ち振る。 ヤイコの怪訝な視線をかわして、布束は思索するように眼を閉じた。 幻覚を使うシーナーに、レベル3程度の『電撃使い(エレクトロマスター)』であるヤイコ。 私を客分として扱っているとはいえ、完全に信用しているわけでも監視を手抜きするわけでもないようだ。 まぁ、ただの料理人である田所恵にも、灰色熊と青毛のヒグマをつけている時点で、推して知るべきだろう。 できうる限り、参加者の手助けになるような裏工作をしてやりたかったが、あらかじめ準備していたあの進入経路図の設置以上のことは、なかなか難しそうだ。 「……クルーザーに余裕があれば、布束特任部長に無線LANの親機を買い出していただきたいところでしたが、それも困難でしょう」 「Why? ここの研究所には、移動用のクルーザーがかなりあったはずよ。 主要な研究員の分と予備だから、7隻だったかしら」 船舶免許などどこ吹く風と、STUDYが北海道の本島との移動のために調達したクルーザーだった。 疑似メルトダウナーなどの大型マシンを日頃から操縦しているSTUDYメンバーは、免許などなくとも船くらいは操舵できる。 布束の計画としては、参加者が脱出する際にも使わせてもらう予定であった。 ヤイコはそのつぶらな瞳を、後ろめたいものでもあるかのように逸らす。 「……もうクルーザーは、その予備の1隻しかありません」 「……は?」 「……反乱時に、一部のヒグマ達がクルーザーに分乗して本島へ渡っていたのです。と、ヤイコは失望的な同胞の蛮行をリークします」 瞬間、少女は、ヒグマの首筋をひっつかんでいた。 その毛皮を布束は襟のように握り込んで、がくがくとヤイコの頭を揺さぶる。 睨みつける瞳は、蛇のような四白眼になっていた。 「なにやってるのあなたたちは!? バカじゃないの!? 有冨たちですら、島外にヒグマを派遣する時は細心の注意を払っていたのよ!? そんな軽率なことをしたら、ヒグマの存在が国中に知れ渡って、あなたたち掃討されるわよ!? 折角、帝国内のヒグマの繁栄にも協力していたところなのに!!」 「ヤイコに言われましても……。 そこのシーナーさんにおっしゃっては……?」 布束砥信は、その腕をぴたりと止める。 そこの。 ……『シーナー』? 布束の耳元に、細い吐息が触れた。 「……私たちとしても、一部の同胞の心ない行いには頭を痛めているのです」 身の凍るような囁き。 少女は弾けるようにヤイコの体から離れ、一気に3歩分ほど跳びすさった。 先程まで布束のいた場所のすぐ傍らに、気味の悪い痩せ方をしたヒグマの姿が見えてくる。 周囲に撒かれていた幻覚の霞から現れるその佇まいは、山水画に描かれる枯骨の仙人のようだった。 「……布束特任部長の仰るとおり、ヒグマ帝国内で兵団としての統率と頭数を揃えてからでなくては、軽率な行為だったでしょう。 いささか、北海道本島や日本国内に行動圏を広げるには時期尚早でした」 「……心臓に悪い登場の仕方は、ご遠慮願えないかしら」 「私は暫く前から、特任部長の隣におりましたが」 穴持たず47、シーナーが、沼のような黒い眼差しで布束を見つめていた。 体重を感じさせない骨の秀でた四肢で、そのヒグマは研究所の出口に向かって歩みを進める。 「……まぁ、時期が早まるなら早まるなりに、対策を取らせてもらうまでです。 遅かれ早かれ将来的に、増える同胞たちを養うには、餌となる人間を大量に『飼う』必要が出てくるでしょうから」 「……つつましく、島内の自治国家で暮らそうという考えは無いの?」 シーナーは、焦点のわからない虚ろな目で振り向く。 震えながら睨み返す布束に、低い声で答えていた。 「それは、私がお伝えすべき事柄ではありません……。 ですが、布束特任部長が、真摯にこの帝国とヒグマのことを考えて下さっていることは、今までの観察で十分理解できました。 このまま私たちの同胞に貢献して下さるならば、遠からぬうちに、布束特任部長も『あのお方』と謁見できるでしょう……」 彼は、意味深にそう仄めかすだけだった。 そして、壁際で会話の動向を見守っていたヤイコへ向かい、シーナーは語りかける。 「ヤイコさん。無線LANが必要なのでしたら、特任部長とお二人でクルーザーを使っていただいて構いませんよ。 あなたか特任部長のどちらかだけの買い出しでしたら不安のあるところでしたが、相互に監視していただければ」 「了解しました。と、ヤイコはシーナーさんのご好意を感謝と共に受領します」 「……どうやら島の火山が闖入者に踏み潰されてしまったようでして、私はまた様子見に行かねばならないでしょうから。 何にせよ、電子機器の保守管理は改めてヤイコさんと特任部長にお任せいたします」 言うや否や、骨ばった掌を振って、シーナーは下半身から溶けるように空中へ消え去っていた。 その様子を見送る布束の耳に、かすかに響いてくる音がある。 直接内耳に語りかけてくるような、低い囁きだった。 『特任部長。あなたがヤイコさんに触れた時、その「寿命中断(クリティカル)」を使用しなかったことに感謝いたします。 そうでなければ私たちは、ヤイコさんと、あなたという、貴重な人材を2名も失ってしまうことになっていたでしょうから』 その幻聴は明らかに、『下手な真似をしたらいつでも殺せる』のだという、脅しに他ならない。 ただし裏を返せば、シーナーが自分にそれなりの信用をおいてくれたということでもあるので、一概に悪い言葉でもなかった。 正直に言って、先程ヤイコに掴みかかったのは単なるものの弾みだったので、能力も何もない。 私のハッタリでは、一度触れてしまえばどこへ逃げようと必ず命を絶てるので、シーナーの指摘は的外れにも思えるが……。 「布束特任部長、そういう訳ですので、北海道の電気屋さんへ一緒に買い物に向かいましょう。 と、ヤイコは正式に仕事の同僚となった御仁をお誘いします」 大きめのテディベアのような彼女は、私に屈託無く呼びかけてくる。 穴持たず81のヤイコは、まったくもって幼体の体つきをしていたが、差し出してくる前脚の爪は、鋭い。 『電撃使い(エレクトロマスター)』ならではの高速の神経伝達は、ヒグマのポテンシャルと相まって相当な速度を打ち出すだろう。 私が僅かでも殺気を放った瞬間には、脊髄反射を上回る落雷の反応速度で、リニアモーターカーのような一撃が私の胸を貫くのだ。 私が本当に『寿命中断(クリティカル)』を演算できたとしても、相打ちになる。 ……相互に監視、というのは、恐らくそういう意味なのだろう。 シーナーが私の監視役に彼女をあてがった理由にも頷ける。 「……Why not? 行きましょうか」 ヤイコの手を取り、歩き始めた。 その体温が感じられる。 ヒグマと連れ立って歩くことができるなど、夢のようだった。 お互いに、いつでも相手を殺してしまえる距離で。 いつまでも温もりを感じていられる距離に。 掌と、肉球が重なりあっている。 それは私が、ようやくヒグマと対等な地平に立つことができたという、証だったのだろうか。 脳裏に、そうして触れることも、会話することもできなかったある女の子のことが浮かぶ。 「……ルカは今、どうしているのかしらね……」 「ルカ?」 「……ええ。あなたたちのお姉さんよ。 こんな実験に巻き込まれることがなければ、あなたたちも平和に暮らせたでしょうに」 人を喰らうことを覚える必要もなく、気は優しくて力持ちな、私たちの隣人として生きていけなかったのだろうか。 各国の研究機関や学園都市の暗部がまた、利権を求めて集まってくるだろうが、ジャーニーや『妹達』のように保護してやることだって、可能なはずだ。 小さなヒグマは、一度だけ瞬きをして布束に答えていた。 「ヤイコは、平和というものの価値がわかりません。 その知識は、少なくともヤイコにはインプットされていません」 布束の深い色をした瞳を見つめ返す眼差しは、微動だにしていなかった。 二人は歩みを止める。 布束砥信の呼吸が乱れたことに、ヤイコの聴覚は気付いた。 彼女の顔面の末梢血管が開いて、眼球の周囲の体温が上がったことに、ヤイコの視覚は気付いた。 布束はほんの少しだけ笑って、ヤイコの左前脚を握る、自分の右手を差し上げた。 「Sorry……。それを教えていなかったのも、私たちの責任なのね……。 なら、今、少しだけでも、覚えてくれる?」 彼女の閉じた瞼から熱い液体が零れ落ちたことを、ヤイコの視覚は捉えていた。 布束と繋がる自身の腕に、その液体の温もりが伝わることを、ヤイコの触覚は感じていた。 「……あなたたちと、ずっとこうしていられることが、平和なのよ」 あなたたちのその痛みに、気づけなかったのは私の責任だ。 有冨や、『妹達』、フェブリたちから託された夢。 私はあなたたちに切り裂かれても、何よりも伝えたいこの夢を、信じつづけるから――。 ;;;;;;;;;; 「ここは、本当にどこなんだろうね……」 呉キリカとキュアドリームは、岩ばかりの洞窟のような場所に出てきていた。 薄暗い灰色の通路の先は、程なくして大きな観音開きの扉に突き当たっており、その向こうにこの洞窟が広がっていた。 潮の香りがする。 滑らかな岩壁を少し覗きこんでみると、そこからは光が射し込んでいた。 「キリカちゃん、外だよ!」 「……ああ。ここは、島の崖の下か?」 キリカたちの目の前には、粒の粗い砂浜が広がっており、その先に北海道の海原が見えていた。 上下左右は、島の崖の一部と思われる岩に囲まれていたが、海原の覗くその裂け目は、大型客船でも出入りできそうなほどの出入り口となっている。 そして裂け目の先の海には、上から滝のように水が降り懸かる。 光の射し方から推測して、ここは島の西の端、A-5の滝の真下なのではないかと思われた。 よくよく見回してみれば、砂浜の端に、一艘のクルーザーが乗り上げられている。 「あれ、もしかすると脱出できるかもしれないな」 「キリカちゃん運転できるの?」 思わぬ発見に駆け出そうとした二人の耳に、響いてくる音があった。 ボーーーー――……ッ。 船の霧笛のような、低く、長い音だった。 どこから聞こえてくるのかとあたりを見回すが、それらしいものは見あたらない。 ボーーーー――……ッ。 数十秒かそれ以上の長い間隔を空けて、二回目の音。 キュアドリームは、そこで気づいた。 「キリカちゃん……。この音、あたしたちの首輪から……」 「なっ……」 二人の首に取り付けられた爆弾の首輪が、非常にゆっくりとした速度で点滅していた。 嫌な汗が二人の背を覆う。 「ダメなのか!? 島内でも、地下は首輪が爆発するエリアなのか!?」 「そ、それより、なんでまだ爆発してないの!? キリカちゃん、いつ爆発するのこれ!?」 呉キリカも、そこで気づいた。 なぜ、禁止エリア内でここまで首輪が爆発まで持っていたのか。 「『指向性、速度低下』ッ!!」 キリカは両手を、ただちに自分とキュアドリームの首筋に向けていた。 その手の翳された空間に、光る魔法陣のような小さな紋が形作られる。 仮面ライダー王熊との戦いから張り続けていた呉キリカの魔法、『速度低下』が持続していたのだった。 首輪から鳴る音響は、より低く、より長いものとなる。 魔法の影響範囲を狭め、効果を増すようにして重ねることで、彼女は自分たちの死刑執行までに保釈期間を作っていた。 「こ、こんなことができるんだ。すごいよキリカちゃん!」 「のぞみ、これはただの時間稼ぎだ。いくら遅くしてもそのうち爆発することには変わりない……!」 一体この魔法でどの程度持つ? 10分? 5分? それよりももっと短いか? その間にこの首輪を外す方法を見つけなければ、私とのぞみは死んでしまう!! 私は最悪、ソウルジェムを遠くにぶん投げれば後で再生できる可能性があるかも知れないが、果たしてのぞみはできるのか。 一体、どうすればいい――? 『違う自分に変わりたい』 あの時、私はそう願った。 もっと。 もっと私に時間をくれ。 少しの間でいいから、私を待ってくれ。 そうすれば私は、きっとここから変わることができる。 どうか、どうかこの状況から変われるまで、その時間を延ばしてくれ――!! ;;;;;;;;;; ……さっさと地上に戻らないと――。 宇宙空間で戦闘を開始した御坂美琴の頭は、次の瞬間にはその考えに埋め尽くされていた。 STUDYの有富春樹が発射した衛星ミサイルを迎撃するために、美琴は白井黒子とともに中間圏まで飛んだことがある。 しかし、現在美琴がいる空間は、さらに地上から離れた位置にあった。 すでに、地球の重力圏から離れてしまっている。 空気は、ヘリの内部に取り残されていた分しか存在しない。 そしてそれもまた、刻一刻と周囲の空間に拡散していってしまう。 気圧による保護がなくなれば、自身の体も宇宙空間に曝され、血液が圧力の低下により沸騰。ただちに死に至るだろう。 『超電磁砲(レールガン)』の威力向上を喜んでいる場合ではない。 ヒグマや、もう一人の少女がまったくもって平気そうな顔をしているのは信じられないことだった。 その敵、ヒグマ2体を観察する。 現在スペースデブリを撃ち合っているニンジャのようなヒグマと、もう一人の少女と肉弾戦に興じようとしているヒグマ。 振り向けば地球は、宇宙空間に飛び出した速度のままで、刻々と離れて行ってしまっている。 ――ちまちま撃ってたら戻れなくなる――!! 美琴は、ヒグマが投擲するスリケンめいた金属片を、その飛来に合わせ、超電磁砲として撃ち返した。 「グオッ!?」 その反射先は、ニンジャのヒグマではなかった。 超電磁砲は、キュアハートと戦おうとしていた穴持たず14の耳の端を、弾き飛ばしていたのだった。 「グルォォォオオ!!」 視野外からの卑怯なアンブッシュに、穴持たず14は怒り狂った。 目の前のキュアハートを無視し、宇宙ゴミを蹴り飛ばして御坂美琴に迫る。 ――そうだ。来い、ヒグマ。 美琴は両の腕を、胸の前に真っ直ぐ突き出した。 その掌で形作る照門に捉えるのは、ニンジャのようなヒグマ、穴持たず7。 正面の彼方にその姿を見据えながら、美琴はその身に数多のスペースデブリを磁力で抱えている。 ヒグマのスリケンをも、そのデブリで緩衝しつつ受け止める。 前方斜め左から、穴持たず14が迫ってくる。 『自分だけの現実』に、彼女は二本のレールを敷いた。 無限遠まで仮想される磁界の銃身上に、穴持たず14が乗る。 その銃口は、一体のニンジャの心臓に突きつけて離さない。 砲の口径は寸分狂わないヒグマの大きさ。 撃ち出す弾体のサイズに隙間もなく等しく。 加速するローレンツは胸の鉄を力に変えて。 さあ、弾体が火口に向けて爪を振る。 発射時間はその交錯の刹那。 ――おいでま、せっ!! 穴持たず14の爪が美琴に揮われようとした瞬間、帯電していた御坂美琴の腕から、すさまじい爆発のようなものが迸っていた。 「グボッ!?」 ヒグマ7の肺から呻きが絞り出されたのは、彼が状況を認識する遙か前だった。 その体には、超音速で射出された、穴持たず14の胴体が直撃していた。 「グアアアアァァアァ――……!!」 二頭のヒグマは一塊となって、速度の減衰することのない宇宙空間を直進する。 肺の奥から空気の一切を絞り出され、衝突する宇宙ゴミに肉体を削り飛ばされ、吹き付ける真空と極低温が彼らの細胞を微塵に砕いていった。 【ヒグマ7 死亡】 【穴持たず14 死亡】 「――お先ッ!!」 御坂美琴は、死の彼方へと向かう彼らとは逆方向――地球に向かって吹き飛んでいく。 彼女がたった今打ち出した『超電磁砲』は、普段使用しているレールガンとはいささか趣が異なっていた。 磁性体でないヒグマを超電磁砲の弾丸として飛ばすために、彼女はプラズマを用いていた。 仮想した磁界にスペースデブリを加速させ、目前に迫るヒグマとの摩擦でプラズマ化させる。 激突したヒグマに、膨張するプラズマの速度を全面的に受けさせ、レールガンの弾として射出した。 反対方向への膨張は美琴自身が、スペースデブリで防護しつつ受け止め、地上へ帰還する推進力とする――。 その一瞬で美琴が演算した現象は、要約すると以上のようなものであった。 ――さて、とりあえず地上には帰れるし、ヒグマたちも始末はできた。 あの女の子は宇宙も平気そうだったから自力で何とかしてもらおう。 当座のところはそれよりも――。 超音速で地上へ戻る御坂美琴の体は、地球の引力に捕らえられた。 彼女はさらに加速し、落ちる。 そして彼女の体に纏わりついてくるのは。 ――空気。 宇宙空間ではあれほど恋しかった空気も、大気圏突入時にはただの摩擦熱発生源に他ならない。 ヒグマに衝突したデブリのように、このままでは肉体が加熱して溶け落ちてしまう。 減速減速減速減速減速減速減速減速減速減速――ッ!! 身につけていた金属片を展開。 自身を覆う防護膜としつつ、摩擦熱で溶融した外壁はそのまま地上へ向け放出し、僅かなりとも速度を相殺させる。 御坂美琴はいまや、白熱する一個の流れ星として、朝の日本の上空を落下していた。 ;;;;;;;;;; 「……お姉さん、というものに関して興味がある点は否定しません。 と、ヤイコは自己の縁者をより深く知りたいと思考しています」 「ルカは、穴持たずの中でも一番最初に作られた子だそうよ。頭も良くて力も強くて。 結構、みんなから慕われていたんだけれど、気づいていたのかしらね、彼女は……。 あなたにはさらに、『オリジナル』とでもいうべきお姉さんがいるし……」 「放送に関しても、同胞の生死を知りたいという点には布束特任部長に全面同意します」 「そう思うわよね。地上で何が起こっているのか、ほとんど何もわからないもの……」 布束とヤイコは、二人で手を繋いだまま、クルーザーの置いてある海食洞までの廊下を辿っていた。 研究所の端であるこのエリアは、未だ電線が寸断されており、明かりの無い灰色の廊下はとても暗い。 ヤイコは通過する間際、前方の蛍光灯へ電気を飛ばし、最小限の照明をその都度確保しながら二人は進んでいる。 ふと、会話に興じていたヤイコの歩みが止まった。 「……布束特任部長、止まって下さい」 「どうしたの?」 「海水がしたたっています。そして、二人分の人間の匂いがします」 明滅する蛍光灯の影の中に、布束は突然廊下に現れている水溜りを見た。 そこから続く水滴はこの廊下の先に消えており、そちらは今、二人が向かっている海食洞の方向だ。 「……加えて、10ヘルツの極低音が2つ、1分間持続して断続しています。 記憶内の音声データと照合するに、首輪爆破の際の警告音をほぼ60分の1倍速に落とすと同一の音となります。 と、ヤイコは濃厚な侵入者の気配に警戒します」 「……!!」 布束は、ヤイコの手を振り払って走り出していた。 研究所の廊下に滴る海水を跳ねて、白衣に風を孕んで疾走する。 すぐさま、隣に子熊が並走してきた。 「お待ち下さい布束特任部長。と、ヤイコは既に戦闘準備を整えながら随行します」 「……」 「外敵を即座に排除しようという意気込みは、ヤイコも布束特任部長と一緒です」 「……」 的外れな言葉を送ってくる隣のヒグマには一瞥もくれず、布束は出口のドアまで一気に走りぬけた。 開けっ放しだった扉から海食洞の岩盤に飛び出し、視界を遮る岩壁を回りこんで砂浜に出る。 そこに、彼女は二人の人影を見た。 「キリカちゃん!! 頑張って!!」 「……私はいいから……。早く、解除方法を、探してくれ……」 おろおろと辺りを見回す桃色の髪の少女の隣で、黒い衣装を纏った短髪の子が、砂浜に突っ伏している。 砂浜には魔方陣のような光の紋様が浮かび上がっており、黒い少女はそこへ力のようなものを与え続けているようだった。 布束が観止めた彼女たちの首筋には、点灯する首輪。 ――参加者だ。 「Don t move, あなたたち! Freeze!!」 布束は走りながら、持ちっぱなしだった肩掛け鞄の工具から精密ドライバー一式を取り出す。 突然の声に驚く彼女たちの反応に潜り込み、長髪の少女の首筋にマイナスドライバーを差し込んでいた。 十秒も経たないうちに首輪は解体される。 続け様に黒髪の少女の首輪も取り外す。 そして呆然とする彼女たちに、手短に状況を説明しようとした。 「私は布束砥信。ここの元研究員よ。あなたたちがどうやって首輪を持たせてたか知らないけれど、ここは今ヒグマに――」 「布束特任部長!!」 その説明を、刺し貫いてくる声がある。 布束の背後で、子供のようなサイズのヒグマが、彼女を見据えていた。 「何をやっているのですか。その者たちは侵入者です」 「……侵入者でも、彼女たちも私の『同胞』なのよ、ヤイコ。あなたと同じくね」 肩越しに鋭い視線を返す布束の声に、ヤイコの総毛が逆立つ。 透き通った殺意を眼球に帯電させつつ、ヤイコは呟いた。 「……非常に残念です、布束特任部長。とても貴重な出会いでしたのに」 「……すまないけれど、もしあなたが襲い掛かってくるつもりなら、私もあなたを殺すわよ」 電気を帯びたヒグマの視線と、麻酔針の毒牙を持つ蛇の視線が膠着する。 互いが間合いとタイミングを見計らう静寂。 その中に、一際異質な嬌声が飛び込んできていた。 「きゃぁー!! かわいい!! 君、ヤイコちゃんっていうの?」 「!? 何ですかあなたは。やめて下さい!」 ドレスのような衣装が、風のような速さでヤイコに抱きついていた。 桃色の長髪の上を二つの輪に纏めている少女――キュアドリームは、帯電するヤイコをものともせず抱きしめている。 ぬいぐるみのようなヒグマは嫌悪感を顕わにしてもがくも、プリキュアの膂力はそうやすやすと振りほどけない。 「ガァッ!!」 「きゃっ!?」 電気で筋収縮を加速し、ヤイコが両腕を打ち振った。 流石に少女はその一撃で吹き飛ばされたが、砂浜に転がって受身をとるのみで、大したダメージは受けていない。 ぬいぐるみのようなヒグマは、その殺意を色濃くする。 「侵入者と馴れ合うつもりはありません。大人しく死んで下さい。 と、ヤイコは恥辱を雪ぐために早急に排除を再開します」 「どうして!? クマさんたちだって、こんなことに巻き込まれてるだけでしょう!?」 「あー、calm down……。それについては私が説明したいのだけれど……」 「布束特任部長は黙っていて下さい。と、ヤイコは短かった同僚との仲を決別します」 布束を置き去って、少女とヤイコが睨み合いを始めようとした時、またもその間に割って入る影があった。 黒ずくめの衣装と、眼帯を身につけた短髪の少女。 彼女は砂浜を歩みながら、子熊に向かってぼりぼりと頭を掻いてみせる。 「なぁ……、キミに私の恩人を殺されると、私はとても困るんだ。 そこの布束さんとやらはともかく、のぞみは私の愛を守ってくれた恩人だからね」 「……愛などという知識は、少なくともヤイコにはインプットされていません」 「……愛はすべてだ。 私の愛が、キミの薄い行動原理と同等とは思われたくないね!」 黒髪の少女――呉キリカが叫んだ瞬間、ヤイコの体は一筋の雷と化していた。 少なくとも、布束砥信とキュアドリームには、そうとしか見えなかった。 一直線に跳んだヤイコの爪が、呉キリカの胴体を引き裂く。 音は、その映像の後からやってきた。 「……ごはっ」 血を吐く、湿った音。 海食洞にそんな生々しい音が響いていた。 崩れ落ち、ずるずると海に落ちていく肉体。 「……遅いよ」 呉キリカは、依然として砂浜に立っていた。 その位置は、一瞬前まで彼女が存在していた地点から優に数十メートルは前方。 気を失い、洞窟の岸壁に激突していたのは、ヤイコであった。 キリカにその突撃を回避され、カウンターを受けた彼女はそのまま壁面にぶつかってしまっていた。 ヤイコの肩口から背中にかけて、大きく刻み付けられた一本の割創が、彼女の筋肉と肋骨を真っ赤な血で染め上げている。 3重に掛けられていたキリカの速度低下魔法。 それらは対象の首輪を破壊されたことで、残存効果を未だ周囲に残していた。 加えてキリカは抜かりなく、歩み寄りながらヤイコに向け、幾重にも速度低下の陣を張っていた。 如何に雷撃に見紛うほどの高速であっても、先ほどのキリカはその速度を十分に遅いものとして認識でき、躱し得た。 速度低下中の人物からは、その姿は残像を置いて消えたようにしか見えなかっただろう。 キリカが武器である鉤爪の生成に回せた魔力は僅か一本分。 しかし、超高速同士のすれ違いざまに叩き付けたその爪は、ヒグマの毛皮を裂き、その肉を相手の意識ごと抉り取るには十分すぎた。 「完全に殺せはしなかったか……。 うん、でも、ま、その、あれだ。ささいだ」 キリカは呟きながら、洞窟の水面に沈んでいくヤイコの方へ振り向く。 「恩人を引っぱたいた分、今からゆっくりと切り刻んでやって――って!?」 水辺に歩み寄ろうとしたキリカの眼に、走る布束砥信の姿が映る。 彼女は白衣を脱ぎ捨てて紺色の制服姿になり、ヒグマの沈む水中に飛び込んでしまった。 「おい、何をやってるんだキミは!? そのクマを助ける気か!? そいつは私や恩人、そしてキミ自身をも殺そうとしたんだぞ!?」 彼女はキリカの言うことに耳を貸さず、水中に潜ってしまう。 浮上した布束はその手にヤイコの腕を掴んで抱え、蛇のような形相でキリカに振り向いていた。 「……あなた、『愛は全て』だと言ったわね。 私は、『愛は伝わる』って事を、とある女の子から聞かされ、それを実感したことがある。 大層なことを言っておきながら、その愛をヒグマにも演繹できないようなあなたは、愛の本質を知らないのではないかしら?」 キリカはその言葉を耳にした瞬間、全身の血液が逆流したように感じた。 鼓動に合わせて、咽喉の奥が揺れる。 呆然と、ただ呆然とした意識の底から、どす黒い怒りが湧き起こってくるようだった。 肝臓から立ち昇る憤怒と、頭頂から降りて来る冷めた意識が、咽喉を通って心臓を食む。 ふらりと、一歩体が前に出る。 残る魔力の、使い道は――。 「キリカちゃん!! 大変だよ、こっちにも津波が!!」 布束に向かって踏み出していたキリカを、夢原のぞみの声が差し止める。 キュアドリームが指す海食洞の入口に、大量の海水が押し迫ってきていた。 島の最北部でキリカたちが飲まれた津波が、時間差を持ってこの西部にも押し寄せている。 しかし、キリカはそちらを一瞥もしなかった。 布束砥信と繋がった視線を固定したまま、左腕を振り上げる。 彼女の口を裂いた哄笑が、迫り来る津波の音に反響していた。 「面白バカみたいっ……! なんだいキミのその理論は!!」 「――キリカちゃん!?」 彼女が振り上げていた左腕の先で、津波が止まる。 海面に浮く布束の頬に、波飛沫が一滴、ゆっくりと吹きかかっていく。 呉キリカの横に浮く巨大な魔方陣が、津波の進行を圧しとどめていた。 指向性の速度低下魔法を、彼女の使用しうる最大限度にまで強めて、放出させていた。 キリカは今にも噛み付きそうな笑みを浮かべて、布束に言葉を吐きかける。 「……キミが本当の愛ってのを知ってるのか、こんな津波やヒグマに邪魔されないところで、ゆっくり聞き出してあげるよ。 一応キミも、私とのぞみの命を救ってくれた恩人と言えるだろうからね。 恩人の有限が無限でなかった時、恩人が故人となるのは愛の発散のその瞬間だと思え!!」 「……そうして貰えると助かるわ」 キリカの言葉の意味を理解してかせずにか、布束は動きの遅い海面から、にっこりと笑みを返していた。 ;;;;;;;;;; 「なんですか……。この気配は……?」 地上に出たシーナーを待っていたのは、不自然なまでの静寂であった。 踏みつぶされたらしい火山の確認のために、E-6エリアから出てきたものの、彼の耳には違和感がまとわりつく。 「鳥が、いませんね……」 その原因に、直ちにシーナーは思い至る。 地震など、大災害の時の前兆のように思えた。 火山が噴火し潰されるだけでも十分大災害だが、それに留まらない違和感が、依然としてある。 地に腹ばいとなり、シーナーはその触覚に大地の振動を触れる。 「北方から津波……? 島内で局地的に地震が発生したのですか……?」 火山だった丘の向こう側が、現在進行形で海水に飲み込まれているという感覚が彼の脳に伝わる。 しかし、振動覚が探知した事柄はそれだけではなかった。 北方だけではない。 多少の時間差はあれど、この島を取り囲むように全方位から津波が押し寄せてきていた。 「ぬうっ……!」 シーナーは、その細い体をただちに引き起こし、島の南側へ視線を送る。 白い泡を立てた波頭と、数多のものを飲み込んだ青黒い海水が、今にも路地を割ってこのエリアまでをも水没させようとしているところだった。 シーナーはその津波にむかって、まるで獲物に飛びかかるかのようにゆっくりと身構える。 虚ろなその眼球から、耳から、鼻から、口から、枯れ木のようなその体躯全てから、墨のように黒いものが迸った。 何者にも見えず、あまつさえ聞こえないその黒色は、光速でシーナーの周囲に拡散する。 液体でもあり気体でもあるかのような挙動で、黒色の霞が周く生物体の内部に浸透した。 シーナーの視覚は、その津波の中に飲まれた魚介を見る。 シーナーの聴覚は、それらが波にもがく水音を捉える。 シーナーの触覚は、その脚にそれら一匹一匹の振動を触れた。 『治癒の書』が、その内部にそれらの様相を克明に記す。 魚類、海綿、甲殻類、扁形動物、プランクトン――。 幾億幾兆にも及ぶ海中の生きとし生けるものを、シーナーはその書の中に書き記した。 割れよ。 汝らが今、見、聴き、触れるものは虚偽。 割れよ。 汝らの眼耳鼻舌身意(げんにびぜっしんに)。 その眼を、耳を、身を、私に明け渡せ。 始源の感覚でこの檄を聞け。 汝らの前には今、巨岩がその道を塞いでいる。 汝らが居るは津波ではない。 その岩にせかるる穏やかな流れ。 割れよ。 その身を虚偽の孤立波と分かち、末に会わんと思え。 その幻の海流を作るは、汝ら。 現を幻とし、幻を現と見よ。 粘性力と慣性力とをその身に引き連れ、私の語る幻を現とせよ。 この場を領(うしは)くは、私の世界である――! 「……『治癒の書(キターブ・アッシファー)』!!」 津波は、シーナーの目前まで迫っていた。 シーナーの構えた腕を、その水が飲み込んでしまうかと見えた瞬間。 津波が、割れた。 波は、シーナーのいる場所の遥か向こうからばっくりと左右に分かれて流れ、後方に広がっていく。 津波の内部にいる魚群が、その海水の断面から覗く。 その魚たちは、皆一様に同じ方向を向き、本来の津波の流れを無視するかのように泳いでいた。 常人の目には見えぬほど小さな貝や軟体動物の幼体、海中を埋めるプランクトンに至るまでが、津波を引き裂くように統一された方向に動いていく。 津波を左右に分断し慣性に反する彼らが、海水の大部分を引き連れ、実際にあたかも大岩がその流れを堰き止めているかのようにその津波を割っていた。 シーナーの足下には、わずかに爪先を濡らす程度の水が流れてくるのみであった。 「……水温が高いですね。かなり南方から流れてきたのでしょうか」 しかし、島の振動から鑑みて、津波はやはり全方位から島をめがけて襲って来ている。 恐らく参加者か闖入者の中に、こうした波浪を操作できる能力を持つ者がいるのだ。 そしてその者は、ヒグマないしこの実験自体を壊滅させるべく、この大技を用いてきたと考えるのが自然だ。 シーナーが一人ごちる中、分断された津波の中を、一人の人間が流されて行ってしまった。 短めの茶髪に、中学校の制服を着た少女だった。 必死に水中をもがき、血走った眼をひんむいていたが、あれでは溺れ死ぬのも時間の問題だろう。 「……哀れなものですね。あれが話に聞く土左衛門ですか。 数メートル以上高さのある建物や木に登ればいいだけなのですから、こんな現象で死者が出て欲しくはないのですが……」 少女の流れる先を横目で追った後、シーナーは溜め息をつく。 問題点は、当座の津波の死者だけではない。 押し寄せる海水が下水道から流れ込み、ヒグマ帝国内にまで進入してしまう可能性がある。 E-6エリアは自分が守ったが、他のエリアまで『治癒の書』で助けに行くにはいささか後手に回りすぎた。 加えて、島の西には海食洞がある。 島の上からの浸水だけではなく、そちらから直接津波が流れ込んで、帝国が完全に水没してしまう危険性すらあった。 布束特任部長とヤイコさんも、そこのクルーザーを利用しに向かっているはず。 さらに、引き波で地上のヒグマや参加者たちが島外に散ってしまったら実験存続どころですらなくなる。 早急な対応が必要であろう。 「……火山どころではありませんね。 ヒグマ提督さんの作成した島風さんが機能してくれればいいのですが。 どうするべきでしょうかねぇ。 委任しきれるほど綿密に連携をとっていないでしょうし彼らは……」 割れた津波の前に、シーナーは暫くの間、佇んでいた。 そしてその体は、再び動き出す。 「キングさんやシバさん、シロクマさん方にも動いてもらう必要がありますかね……」 閉ざせ。 汝らが今、見、聴き、嗅げるものは虚偽。 閉ざせ。 汝らの眼耳鼻舌身意(げんにびぜっしんに)。 その眼を、耳を、鼻を、私に明け渡せ。 始源の感覚でこの檄を聞け――。 シーナーの肉体は、その全身から溢れる黒いものに覆われた。 何者にも見えざる色。聞こえぬ音。 シーナーの存在は再び、影も残さずにあらゆる者の認識から消え去っていた。 【E-6:街/朝】 【穴持たず47(シーナー)】 状態:健康、対応五感で知覚不能 装備:『固有結界:治癒の書(キターブ・アッシファー)』 道具:なし [思考・状況] 基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため、危険分子を監視・排除する。 0 地下に戻って帝国の防衛に当たるか? それとも地上で会場内の収集に当たるか? [備考] ※『治癒の書(キターブ・アッシファー)』とは、シーナーが体内に展開する固有結界。シーナーが五感を用いて認識した対象の、対応する五感を支配する。 ※シーナーの五感の認識外に対象が出た場合、支配は解除される。しかし対象の五感全てを同時に支配した場合、対象は『空中人間』となりその魂をこの結界に捕食される。 ※『空中人間』となった魂は結界の中で暫くは、シーナーの描いた幻を認識しつつ思考するが、次第にこの結界に消化されて、結界を維持するための魔力と化す。 ※例えばシーナーが見た者は、シーナーの任意の幻視を目の当たりにすることになり、シーナーが触れた者は、位置覚や痛覚をも操られてしまうことになる。 ※普段シーナーはこの能力を、隠密行動およびヒグマの治療・手術の際の麻酔として使用しています。 ※E-6エリアの全体及びE-5エリアの南側は、シーナーの能力により、津波による影響を完全に免れました。 ;;;;;;;;;; ――死んでたまるかっ!! 「おおうりゃあああああっ!!!」 津波の中から、一筋の雷がさかしまに立ち昇った。 水面を飛沫と裂き、その雷は間近いビルの壁面に直撃する。 オフィスビル4階の窓枠に磁力で取り付いて、雷は肩で荒く呼吸した。 常盤台のレベル5、『超電磁砲(レールガン)』。 宇宙から帰還したばかりの『電撃使い(エレクトロマスター)』、御坂美琴その人だった。 茶髪も制服も海水でずぶ濡れになり、その身に張り付いている。 眼下で街道を埋め尽くしてゆく津波の流れを見ながら、彼女は溜め息をつく。 恋しかった地球の空気を肺の奥に存分に吸い込み、美琴は窓ガラスを破ってビルの中に入り込んだ。 宇宙空間から帰還した御坂美琴は、太平洋の日本近海に着水していた。 そして、海底まで宇宙ゴミの即席ポッドとともに一挙に沈んだ美琴を襲ったのは、突然の津波。 浮上していた美琴はそのまま津波に飲まれ、奇跡的に目的の島まで流されていた。 瓦礫や海流にポッドを剥ぎ取られ、必死にもがく彼女が街に至らんとした時、突如その目の前には大岩が出現していた。 周囲の魚たちと共に全身の力を出し尽くしてその岩を泳ぎ避け、残る演算能力を振り絞り、林立するビルに磁力を向けていたのだった。 「……大気圏突入のお出迎えが津波ねぇ……。 もう、色々ふざけてるとしか言いようがないわ。 佐天さんたち、流されてないわよね……。 あとちょっとだけ、待っててね……」 オフィスのデスクに突っ伏して、彼女はその天板に疲弊を流していた。 【D-6:街(とある一棟のオフィスビル内)/朝】 【御坂美琴@とある科学の超電磁砲】 状態 疲労(大)、ずぶ濡れ、能力低下 装備 なし 道具 なし [思考・状況] 基本思考 友達を救出する 0 佐天さんと初春さんは無事かな……? 1 なんで津波が島を襲ってるんだろう? 2 あの『何気に宇宙によく来る』らしい相田マナって子も、無事に戻って来てるといいけど。 3 今の私に残った体力で、このまま救出に動けるかしら……? [備考] ※超出力のレールガン、大気圏突入、津波内での生存、そこからの脱出で、疲労により演算能力が大幅に低下しています。 ;;;;;;;;;; 回避された。 あの一瞬の交錯で、それだけはわかりました。 代りに受けた被害は、鉤爪による深い割創。 左の肩口から、脇の下を抜け、背面に至る。 折れた肋骨が胃に刺さり、肺の挫傷、動揺胸郭まで呈している。 加えて、岩壁との衝突の衝撃により内臓が損傷している。 とりわけ心臓の外傷が無視できない。 心膜内に血液が漏出しており、心タンポナーデを引き起こしている。 心駆出率が低下し、死に至るのにそれほど長い時間は掛からないでしょう。 と、ヤイコは気絶した脳内の電気信号の残滓で、冷静に自己を分析します――。 短い生存期間でした。 体躯には恵まれないながらも、生まれ持った能力と、小さいがゆえにできる活動とで、ヤイコは自身の存在に自信を持っていました。 しかし、この能力を用いても、侵入者1人に返り討ちにあってしまう程度ならば、多分、ヤイコには価値がなかったのでしょう。 布束特任部長も、殺害できませんでした。 ヤイコはヒグマ帝国のためを思うがゆえに、あなたを殺そうとしました。 あなたはヒグマ帝国のためを思うがゆえに、ヤイコを殺そうとしました。 どういうことなのでしょう。 ヤイコの作成技術を造って下さった布束特任部長の方が正しいとすれば、ヤイコは間違っていたことになります。 だとすれば、ヤイコはこのまま死んでしまったほうが、ヒグマ帝国のためになるということでしょうか? なるほど。 生命の繋がりというものは、上手くプログラミングされているものです。 生き残るべきものが生き、死ぬべきものは然るべき時に死ぬのですね。 それならば、ヤイコは布束特任部長やシーナーさん方に謝罪の意を表明しつつ、静かに死のうと思います――。 『――死んでたまるかっ!!』 その時。 海中に沈むヤイコの意識に、確かに響いてくる声がありました。 誰よりも近くにいた、ヤイコ自身のようなその声。 自身の能力の放射を、そのまま外から浴びせられたような――。 どこか、とても懐かしい気がする声でした。 そしてまた、ヤイコを響かせる声が聞こえてきます。 「――戻ってきなさいッ! ヤイコ! 死んでは駄目! 帰ってきなさい!!」 「……ぐばっ……」 痛いです。布束特任部長。 そんなにヤイコの胸を断続的に圧迫しないで下さい。 今、ヤイコの心臓には、血が――。 あれ? 「……まったく、恩人の望みが、このヒグマの回復だなんて……。私やのぞみの命は、このヒグマと同等なのかい?」 「等しく尊いに決まってるわ!」 自己の体内を走査するに、左半身の損傷の大半が、肉芽組織に覆われています。 内臓損傷の大部分も吸収され、治癒しているようですね。 不可解なことがあるものです。 「キリカちゃん、こっちは準備オッケーだよ!」 「やっとかい、のぞみ……。速度低下と治癒魔法の同時行使とか……魔力のバーゲンセールをする私の身にもなってくれよ」 「ごめんごめん! 行くよー……っ!!」 頭の脇で、温かな力の奔流を感じます。 力強い。 温かな布束特任部長の腕が、ヤイコの胸にもその温もりを導いてくれるかのようです。 「『プリキュア・シューティング・スター』ッ!!!」 ヤイコの眼は、胡蝶の様な暖かい光の束に、海食洞に迫る津波が、真っ二つに引き裂かれる光景を捉えていました。 ヤイコの隣には、片目に眼帯をつけた、あの時の侵入者が立っています。 彼女はヤイコと眼を合わせると、肩をすくめて立ち去ってしまいました。 そして、ヤイコの顔には、暖かい水滴が滴り落ちてきます。 横たわっているヤイコの上には、布束特任部長の顔がありました。 御髪が濡れて、海草のようではありませんか。 折角の整った表情もぐしゃぐしゃです。 なぜ、あなたはそんなにも、眼球から雫を零しているのですか――? 「――わかる? ヤイコ? これがね、これが、愛ってものなのよ」 あの時ヤイコの触覚に触れた、暖かな液体が降り注いでいます。 涙というこの体液すら、力になっていく。 悪い感覚ではありません。 これが、愛というものですか。 ヤイコの生命の意味は、その愛に見合うものなのですか? ヤイコには、まだそんな知識を教えてくださるほどの価値が、あるのですか? 津波を引き裂き、傷を癒し、ヤイコにまで温もりを与えてくれるこれが、愛なら。 きっと、その本質は、素晴らしいものなのでしょうね。 【A-5の地下:ヒグマ帝国(海食洞)/朝】 【夢原のぞみ@Yes! プリキュア5 GoGo!】 状態 ダメージ(中)、キュアドリームに変身中、ずぶ濡れ 装備 キュアモ@Yes! プリキュア5 GoGo! 道具 なし 基本思考 殺し合いを止めて元の世界に帰る。 0 キリカちゃんと一緒に津波も打ち消せたし、布束さんとヤイコちゃんとお話ししよう! 1 ここがどこかわかったら、キリカちゃんと一緒にリラックマ達を捜しに行きたい。 2 ヤイコちゃんかわいいなぁ。 [備考] ※プリキュアオールスターズDX3 終了後からの参戦です。(New Stageシリーズの出来事も経験しているかもしれません) 【呉キリカ@魔法少女おりこ☆マギカ】 状態 疲労(中)、魔法少女に変身中、ずぶ濡れ 装備 ソウルジェム(濁り中)@魔法少女おりこ☆マギカ 道具 キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ 基本思考 今は恩人である夢原のぞみに恩返しをする。 0 布束砥信。キミの語る愛が無限に有限かどうか、確かめさせてもらうよ? 1 恩返しをする為にものぞみと一緒に戦い、ちびクマ達を捜す。 2 恩返しをする為にも布束には協力してやりたいが、何にせよ話を聞くところからだ。 3 ただし、もしも織莉子がこの殺し合いの場にいたら織莉子の為だけに戦う。 4 ヒグマにまで愛を向けるとか、正常な人間なのか布束は? のぞみも微妙だし……。 [備考] ※参戦時期は不明です。 【布束砥信@とある科学の超電磁砲】 状態:健康、制服がずぶ濡れ 装備:HIGUMA特異的吸収性麻酔針(残り27本)、工具入りの肩掛け鞄、買い物用のお金 道具:HIGUMA特異的致死因子(残り1㍉㍑)、『寿命中断(クリティカル)のハッタリ』、白衣 [思考・状況] 基本思考:ヒグマの培養槽を発見・破壊し、ヒグマにも人間にも平穏をもたらす。 0 ヤイコが助かって良かった……。 1 キリカ・のぞみの情報を聞き、ヤイコと和解させ、協力を仰ぐ。 2 帝国・研究所のインターネット環境を復旧させ、会場の参加者とも連携を取れるようにする。 3 やってきた参加者達と接触を試みる。 4 帝国内での優位性を保つため、あくまで自分が超能力者であるとの演出を怠らぬようにする。 5 ヤイコにはバレてしまいそうだが、帝国の『実効支配者』たちに自分の目論見が露呈しないよう、細心の注意を払いたい。 6 ネット環境が復旧したところで艦これのサーバーは満員だと聞くけれど。やはり最近のヒグマは馬鹿しかいないのかしら? [備考] ※麻酔針と致死因子は、HIGUMAに経皮・経静脈的に吸収され、それぞれ昏睡状態・致死に陥れる。 ※麻酔針のED50とLD50は一般的なヒグマ1体につきそれぞれ0.3本、および3本。 ※致死因子は細胞表面の受容体に結合するサイトカインであり、連鎖的に細胞から致死因子を分泌させ、個体全体をアポトーシスさせる。 【穴持たず81(ヤイコ)】 状態:疲労(小)、ずぶ濡れ 装備:『電撃使い(エレクトロマスター)』レベル3 道具:なし [思考・状況] 基本思考:ヒグマ帝国と同胞の安寧のため電子機器を管理し、危険分子がいれば排除する。 0 ヤイコにはまだ、生存の価値があるのでしょうか? 1 ヤイコがヒグマ帝国のためを思って判断した行動は、誤りだったのでしょうか? 2 無線LAN、買いに行けますでしょうか。 ※島の西側の津波は、キリカの速度低下により、到達までのタイムラグが大きくなっているようです。 ※A-5エリア及びB-5エリアの全体、およびC-5エリアの西側付近などは、のぞみの攻撃により、津波による影響を完全に免れました。 ;;;;;;;;;; 「……あー……。いっちゃった……」 宇宙空間に一人取り残されたキュアハートは、宇宙の彼方と地球を交互に見やり、溜め息をついた。 折角分かり合えると思ったクマさんたちは、雷を操る『美琴サン』という女の子に吹っ飛ばされて、いなくなってしまった。 「ヒグマ7さー……ん!!」 叫んでも届かない。 彼らは超音速で飛んでいってしまったのだし、音を伝える空気すらここにはない。 本当なら今からでも追いついて愛を説きに行きたいところだったが、それでは本来の任務を見失ってしまう。 早く地上に戻って、会場のヒグマたちに愛を教えるべきなのだろうか。 思い悩む相田マナの脳内に、響いてくる声があった。 『ドーモ、相田マナ=サン。ヒグマ7と穴持たず14です』 「あ、ヒグマ7さん!? 答えてくれたんですね!?」 キュアハートは、その声をよく聞こうと、自分の頭を両手で抱える。 死んだはずのヒグマ7の声がなぜ脳内から聞こえるのかという異常性には、彼女は思い至らなかった。 『マナ=サンの愛の思いが、私たちのソウルを繋げて、引き寄せてくれましタ。 愛というものは、素晴らしいですネ』 「そうでしょう? やっぱりどんな生き物にも愛はあるのよ! あなたみたいに、みんなの胸のドキドキ、取り戻して見せるわ!」 『それは良いですネ。では、イタダキマス』 ぞぶっ。 「は……?」 相田マナは、自分の脳内に、奇怪な水音を聞いた。 自分の肉が、内側から食われているかのような音だった。 遅れて、自分の身体が流れ落ちてしまうような喪失感と、激しい痛みが彼女を襲う。 ぞぶり。ぞぶり。 「あっ……あふぅうっ……!?」 眼球がぐるりと白目を剥いた。 体内で暴れまわる熱感と痛みに、マナの両手はがりがりと自分の頭皮を掻いた。 血が溢れる。 浅側頭動脈が抉れて大量の血が金髪を濡らすが、彼女の煩悶は続く。 身をよじり、喘ぎ声を漏らし、精神の捕食者に抗おうとする。 しかし彼女の魂は、自らが招き寄せた魂を拒みきることはできなかった。 「あッ……、あはぁっ……! う、くぅう――!!」 白目を剥いた彼女の顔には、次第に歓喜の表情が浮かんでくる。 吐息に混ざる熱は、その痛みに耐えかねて、感覚を反転させた。 キュアハートは、自らが捕食され、全き愛と化すことを悦んだ。 自身の内部に侵入した者と溶け合い、自分の中身が彼にぶち撒けられる有様に、狂おしいまでの喜悦を得ていた。 「あああっ……!! あああああああああああっ!!!」 相田マナは7度、痙攣した。 体内に蠢く余韻をびくびくと感じながら、彼女は肺の奥から熱い吐息を搾る。 「……アーイイ……」 火照ったようなその表情には、蕩けるような笑みが浮かんでいた。 ふっ、ふっ、とその体に宇宙を呼吸しながら、相田マナだった彼女は笑う。 側頭から血液を溢れさせながら、恍惚の笑顔を、彼女は地球へと向ける。 「キュンキュンするよぉー……。 やっぱり、ヒグマさんの笑顔を見ると、こっちも嬉しくなるなぁー……」 キュアハートの指先は、宇宙空間にハートマークを描いた。 溢れ出た自分の血液で描かれたその文様は、真っ赤な縁取りとして彼方の地球を包む。 真の愛の前には、地球でさえちっぽけなものだ。 彼女はそして、中空に浮く血のハートを、べろりと舐め取った。 口中に広がる滋味深い味わいに、聖女のようなその笑顔は一段と笑みを濃くする。 「……おいしい~……。 ……みんなを食べて、食べられて、一つになれば、もう友達だよね。 ヒグマ7さんの教えてくれた愛のカタチ、みんなにも教えてあげなくちゃー……」 プリキュアたるもの、いつも前を向いて歩き続けること。 それが彼女の心得である。 例え、自分の魂が半分食い破られ、ニンジャとヒグマのソウルに侵食されたのだとしても、それは変わらない。 彼女にとっては、その汚染物でさえも、愛を交し合った仲間であった。 聖女は、その思考に雑音が入ろうとも、その意志を貫く。 重ね合った、この想いは誰にも壊せないから……! 【???/宇宙/朝】 【相田マナ@ドキドキ!プリキュア、ヒグマ・ロワイアル、ニンジャスレイヤー】 状態 健康、変身(キュアハート)、ニンジャソウル・ヒグマの魂と融合 装備 ラブリーコミューン 道具 不明 [思考・状況] 基本思考 食べて一つになるという愛を、みんなに教える 0 そうか、ヒグマさんはもともと、愛の化身だったんだね! 1 任務の遂行も大事だけど、やっぱり愛だよね? 2 まずは『美琴サン』や山岡さんに、愛を教えてあげようかな? [備考] ※バンディットのニンジャソウルを吸収したヒグマ7、及び穴持たず14の魂に侵食されました。 ※ニンジャソウルが憑依し、ニンジャとなりました。 ※ジツやニンジャネームが存在するかどうかは不明です。 No.104 鷹の爪外伝 北海道周辺より愛をこめて 接触編 本編SS目次・投下順 No.106 水雷戦隊出撃 No.099 大沈没! ロワ会場最後の日 本編SS目次・時系列順 No.113 文字禍 No.098 ゼロ・グラビティ 御坂美琴 No.115 羆帝国の劣等生 相田マナ No.108 老兵の挽歌 No.097 気づかれてはいけない 穴持たず47 No.116 水嶋水獣 布束砥信 No.099 大沈没! ロワ会場最後の日 呉キリカ 夢原のぞみ ヤイコ
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四宮ひまわりは知っている。 この眠気には抗えないのだということを。 ふと気を緩めてしまえば、周りに犇めいている人の気配や声など、簡単に意識の水底に沈み広がっていってしまう。 気が付けばそこは、茫漠と広がる、深海だ。 だが、そこは暗くもなく、寒くも無かった。 周りには何も見えない。 何も見えないながら、温度だけで色を感じる。 赤い。 深い深い赤さだ。 眼を開けていた時に見えていた暗闇から、滲みだすように瞼の裏に赤色が広がってゆく。 起きていた時に震えていた冷たさではなく、暖かなヒトの温もりが、そこにはあった。 体の周りから、世界の全てへと広がる、柔らかな赤。 四宮ひまわりは、その色の深くへと潜ってゆく。 息苦しさはない。 ただ安堵感だけがある。 周りに、ヒトを感じるのだ。 あらゆるヒトの、体温でできた赤の中を、ゆっくりと彼女は泳いでいる。 そうして、ひまわりは何かを探していた。 何を探しているのかは、思い出せなかった。 ≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ 「……イーシュケ……、ア、ラフタル……。 ジョラーンナ……、テルチェ……」 彼女の口が、ふと聞き慣れない言葉を呟いていた。 その寝ぼけた声色に、ハッと少女が振り向く。 「Wake up……! 起きて、四宮ひまわり……!」 「……ふあ?」 四宮ひまわりのほほが、軽く叩かれる。 暗闇の中で、布束砥信の心配そうな表情が、彼女の目の前にはあった。 「ああ、布束さん、おはよう」 「お早うじゃないわ……。意識の持ってかれる頻度が増してる……!」 苦い声を漏らす布束砥信は、その半眼を顰め唇を噛む。 白衣を纏う布束の指先が、ひまわりの肌を撫でた。 感覚が鈍い。 横目で見やれば、布束砥信に触れられている左腕は、皮下を這い回る太い木の根で膨れ上がり、もはや人間の腕の形をしていなかった。 顔もそちらに振り向けられないので、どうやら首筋から顔面にまで『童子斬り』の侵食が進んでいるらしい。 薄ぼんやりとした暗い視界には、布束砥信以外に、間桐雁夜、田所恵、穴持たず104テンシといった面々の心配そうな表情が垣間見える。 みな揃いも揃って、通夜にでも出てきたかのような沈鬱さでもって四宮ひまわりのことをのぞき込んでいた。 「ふふ……、どうしたのみんな。大丈夫大丈夫、何も心配ないよ。私はただ寝るだけだから」 「本当に大丈夫なの……!? だってそれ、龍田さんと戦ってたあの黒ずくめの人のなんでしょ!?」 田所恵が、あまりに緊張感のないひまわりの言葉に声を絞る。 だがひまわりは至って冷静に彼女に答えた。 「間違いなく大丈夫。だってあの黒い変人は間桐さんがわざわざこの木を抜いたせいで狂ったんだから。 龍田がやられたのはむしろ間桐さんのせい」 「ちょっと待ってくれよ!? どうしてそうなるの!?」 ひまわりに指を突きつけられ、間桐雁夜は抗議の声を上げる。 まだひまわりの、右腕は動いた。 「……確かにそれはそうかも知れない。でも、そもそも示現エンジンが崩壊しかけたのは童子斬りのせいではない? 思考も清明なようでいて、すでに何かしら影響を受けている可能性があるわ、四宮ひまわり」 「あ、あの……。寄生虫の中には、患者さんの免疫能力を抑える物質を分泌するものが多いです。その木も、そういう種類なのかも……」 雁夜のフォローというわけでもなく、布束砥信はひまわりの言動を分析する。 穴持たず104も付け加えたように、医療者の立場からみれば四宮ひまわりの状態は一刻の猶予もない。 既にどれだけの組織が侵食されているのか。 一体どうすれば除去できるのか。 除去したところでこの後、四宮ひまわりは果たして無事でいられるのか。 神経精神医学者に過ぎない布束と、ヒグマの医療者とはいえ研修中の看護師に過ぎないテンシとでは、その予測もたたない。 そもそも、倒壊した診療所の下に半ば生き埋めとなり、流れ落ちてはさらなる地下に消えてゆく下水道の津波に肝を冷やしている現状では、この場の誰一人の命すら、生存の予測ができなかった。 「うん……。まあ脳内分泌を操作されてるのは明らかだよね……。 私がこんなに落ち着いてられるのも、この木のおかげかな……」 四宮ひまわりは、そうして現状を認識しながらも、ひたすら冷静だった。 慌てたり恐れたりしようとしても、できない。 この木の危険性も、この状況の危険性も認識しながら、彼女は自分でも驚くほど、安堵しか感じなかった。 上を倒壊した診療所、下を深い地下洞と水脈に塞がれているこの空間を、彼女たちが自力で脱出するめどは立たない。 ただ彼女たちは、上からならば暁美ほむらたちが、下からならばビショップヒグマが、生き残って助けに来てくれることを待ち続けることしかできないのだ。 だが裏を返せば、待つだけでいい。 その現実を四宮ひまわりは、ただ淡々とした安堵を以て見つめている。 そんな中で彼女たちにできることは、ただ会話を、続けることだけだった。 「私、さっき……。赤いジャムの中で、泳ぐ夢を見てた」 「赤い、ジャム……?」 ひまわりの呟きを、間桐雁夜が拾った。 彼の応答に続けてその場の全員から言葉が返る。 「覚醒剤のトリップの症状みたいに聞こえるわ……。 この童子斬りが、何か幻覚でも見せているのかしら」 「甘そうで……、息苦しそうな夢ですね……」 「プリザーブドスタイルだったんですか……?」 「それがぜんぜん苦しくなかった。プリザーブドだったかはわかんないけど。 赤くて広くて、暖かくて……。ここにいるみんなの体温を、感じられた」 思い思いに皆が言う中で、雁夜だけは、暫く思考を巡らせてから言葉を返した。 「わからないが……、夢や無意識の中で見えたそういう大きなイメージなら、『阿頼耶識』かも知れない」 「荒屋敷?」 「人間の集合的無意識。世界の抑止力を形成する莫大な力のことだ」 間桐雁夜が語ったのは、魔術師の間では半ば常識といってもいい、その道の代表的な障害についてだ。 そもそも魔術とは、根源の渦に到達するための手段であるが、本来至ってはならぬその極限への道には、常にその歩みを妨げようとする内在的な力が存在している。 それが、魔術師自身を含む全人類の無意識によって構成される力、『阿頼耶識』である。 有り得べからざる異端に進もうとする歪みを修正し、排除し、世界を安定させる方向へと常に働く力だ。 「ユングの提唱した『元型(アーキタイプ)』ね。 フロイトが無意識を個人的なものに限って考えたのに対し、ユングはさらにその底に人類共通の生来的な無意識の相があると考えた。 それが意識化されるとき、ある種の類型化されたイメージとなって現れる。とは言われているわね」 雁夜の説明を、ある種、腑に落ちたように布束砥信が繋いだ。 心理学の分野においても、この魔術の概念に相当する存在は提唱されている。 「緩衝液(バッファー)みたいなものでしょうか? 血液とか……、リンゲル液みたいな」 「そうね、両極への動きを緩衝しようとする力としては近いのかしら。 陶淵明の三つの自己でいう、『神』のようなものでしょうから」 頭をひねっていたテンシが、持っている知識で近いものを挙げる。 体内の環境を酸性にもアルカリ性にも傾きすぎないように調整している血液は、一種の強力な緩衝液であると言えた。 「血液の……、ジャムですか……? 見た目としてはブラッドプディングみたいな代物になるんでしょうか」 「プリンかどうか知らないけれど、代表的なイメージには……。 男性における女性のイメージの『アニマ』、女性における男性イメージの『アニスム』などがあるらしいわ。 《魂》《風》《呼吸》《心》《生命》などを意味するものね」 田所恵が挙げた料理は、プリンはプリンでも、動物の肉や内臓、血液で作られたプリンであり、実際のところはソーセージに近い。 好みは分かれるが美味であり、栄養価も高い。 聞いていた四宮ひまわりの口の端から、よだれがこぼれた。 「あ……、美味しいよね……。恵ちゃんのブラッドプディング……」 その呟きに合わせるように、暗闇の中でもはっきりわかるほど、ひまわりに巣喰う童子斬りの根が蠢いた。 同時に急速に意識を失いかけるひまわりの頬を、布束が慌てて叩く。 ひまわりが再び目を覚ますまでのわずかな間にも、狼狽する一同の元にその根は這い寄り始めていた。 「起きて! 起きて! しっかりしなさい!!」 「痛い……。布束さんそんな強く叩かないでよ……」 「こっちの痛覚はまだ生きてるのね!? 良かった……」 互いの皮膚が赤く腫れるほどの勢いで強くひまわりの右頬を叩き、布束砥信は息をつく。 四宮ひまわりが目を覚ますのに必要な刺激も、徐々に増してきていた。 その様子に、雁夜は濁った左目を歪ませて唸る。 「食欲だ……! 今まで見てたので確信した。結局こいつの性質は刻印虫どもと一緒だ。 魔力にしろ何にしろ、吸い上げられる養分なら何でも吸い上げたいんだ。そして宿主の組織に置き換わる……!」 周囲の地盤のほとんどには、既にこの分枝した童子斬りの根が蔓延っている。 もはや延びる場所がなくなったために末端があふれ出てきたのか、それとも雁夜たち自身を狙って延びてきたのかは判然としないが、どちらにしても、相当切羽詰まった事態であることには変わりがない。 木の根に現在進行形で侵食されてゆく四宮ひまわりの姿は、刻印虫に蝕まれていた雁夜自身の姿に重なって見えた。 可愛らしかったその少女の身が、徐々に徐々に、一年前の自分のように痛ましく侵されてゆくのを看過することなど、雁夜には耐えられなかった。 「なぁ、さっき、何か詠唱してただろ。ひまわりちゃんはあれでこの根っこを抑えてたんじゃないのか? 体を侵食するこの根を逆に魔術回路として利用して、自己封印をかけるんだ……!」 そうして考えを巡らせた末に、雁夜は一つの解決策を思いついていた。 先ほど目を覚ます直前に彼女が呟いていた奇妙な言葉が、雁夜の記憶の片隅に引っかかっていた。 「……私、何か言ってた?」 「あ、うん、確かに言ってたよ。イーシュケ・ア・なんとか、ジョラーンなんとかとか」 田所恵が、ひまわりが寝ぼけたように呟いていた言葉を、思い出せる限りで復唱する。 ひまわり自身もよく覚えていないその言葉に、雁夜は顎をかいて思考を巡らせた。 「ゲール語……、アイルランドとかケルト系の言葉に聞こえたな。 Uisce(イーシュケ)が水、Deora(ジョラー)は涙とか、そんな意味だったはずだ」 大した間もあけずその口から訳語が飛び出すと、その場はしばらく沈黙が支配した。 その周囲の反応に、語った雁夜がまごつく。 「ど、どうしたみんな?」 「ア……、アイルランドって……!?」 「ん? イギリスの一部だよ。クー・フーリンとか、そこそこ有名な英雄がいたところ」 「いや、そうじゃなくて……。間桐さんアイルランド語なんてわかるの!?」 四宮ひまわりが、驚きに口を開けていた。 ほかの者も、暗闇の中でそれぞれに同意しているのが伺える。 純粋に彼女らは驚いていたのだが、雁夜はどうにも、今まで自分が軽んじられてきた感を強く覚えて嘆息した。 「いやそれは、ジャーナリストだし魔術師だし……。俺だってそれくらいは知ってるよ」 「それで、それが詠唱というのと関係があるの? 医学的に除去困難だから、それこそ魔術にでも頼るしかないわ」 「まあ、無意識下の領域で出てきた言葉だし……。俺が刻印虫にやられてた時みたいに、本能的な自己防衛が働いてもおかしくないんじゃないかと」 布束砥信からの問いに、雁夜は自分の経験と重ね合わせながら答えた。 「そういえばあなた、童子斬りに命令を与えてすらいたわよね」 「あれは英語だったし……。単純な入出力系にならプログラミングみたいにできるかと思っただけ」 布束が思い出したのは、示現エンジンの管理室で、四宮ひまわりが初めてその切れ端を手に取った際のことである。 その際彼女が使っていた言語は、もちろんアイルランド語などではなかった。 だが雁夜は、憮然としたひまわりの言葉に首を振る。 「魔術も、つまりは肉体を回路としてプログラムを実行させる手法だ。 詠唱はその回路に流すソースコード。合う合わないは確かにあるが、その人の回路が理解できるなら何語だって別にいいんだ。 遠坂はドイツ語使うし。間桐はロシア系だが。まあうちの呪文をドイツ語で言おうが日本語で言おうが魔術は使えるんだ」 「結局、自分の体がコンパイラになってるというわけね。一度、あなたは確かに童子斬りというアプリケーションにプログラムを実行させたのよ」 四宮ひまわりは、無言のままに彼らの話を聞いた。 つまり彼女は、既に童子斬りという妖刀に適合しているのだ。 魔術回路として組み込まれている、神経系が接続している、プログラミング言語をコンパイルできる。 状態を示す言葉に差はあれど、それはひまわりが、童子斬りの侵食を逃れ、助かるかもしれない確かな可能性を示していた。 雁夜がひまわりの元ににじり寄る。 ぼんやりとした彼女に向け、やさしく語りかけていた。 「あのなひまわりちゃん。まさか、うちのクソジジイの言葉を人に教えることになるとは思わなかったが。 こういう輩を『支配』するには、まず心を通わせることが必要になるらしい。 体を食われながらも、家族や相棒、ペットのように……。無意識からそう思い込んで、阿頼耶識の力すら使う気概で。 ……俺が究められたかどうかは甚だ疑問だけどな」 彼の言葉は、ひまわりの耳に遠く届いた。 既に彼女の眼は、瞼の裏に真っ赤な海を見ていた。 太陽のように赤く燃える、ユニティーなヒト科の音を立てて、指先に甘い温もりが、触れていた。 ≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ 「待っててね龍田さん……! すぐにゴーヤイムヤたちと合流するから!」 「しっかりして! もうすぐよ! すぐ助けてもらえるからね!」 「ええ……」 島のさらなる地下には、水浸しになりながら水脈を漕ぐ、幾十頭ものヒグマの群れがいた。 彼らが抱えているのは、傷だらけになった一人の少女だった。 その少女、艦娘の龍田は、半身を爆傷に焼かれ、半死半生のままヒグマたちの腕に力なく横たわっている。 探照灯で照らす地下水脈の中を踏み歩き、水圧に抗って懸命に彼女を運んでいるヒグマたちは、龍田提督率いる第七かんこ連隊の面々だった。 「龍田提督、なんか水かさが増してない!?」 「ええ、音が聞こえたわ天龍提督。ゴーヤイムヤが下水道を割ったのかも! 龍田さん濡らさないでね!」 「わかったわ!」 野太い彼らの声音を聞きながら、龍田はぼんやりと、頭に浮かんだ疑問を問う。 「……ねぇ、あなたたちって、結局、どういう集まりなの? なぜ私を助け、なぜこの国と、争っているの?」 「何って……、え? 龍田さんわからないの!?」 「わかるわけないでしょう……? 私はヒグマ提督とやらにも会ってないんだから……」 先頭から振り向いた龍田提督は、驚くのもそこそこに、探照灯を振り振り、答えた。 「そうねぇ……。結局、ただアチシたちは『艦これ』が好きなだけのヒグマよ。でもこのヒグマ帝国は、ただのそれだけのアチシたちの話を聞いてくれなかった。 欲求不満が溜まって溜まって。それでパッションがスプラッシュしたって、それだけのことよ。 とにかく上層部の奴らを取り押さえて、言うことを聞かせられればよかった……。それなのに……」 彼が思い出していたのは、第七かんこ連隊の一同を、身を挺して守った形になる、ツルシインのことだった。 敵対していた相手なのにも関わらず、彼女の計略のおかげで、彼らは傷一つなく喫茶店での戦闘から生還していたのだ。 「イッちゃった後って、本当に虚しいのねぇ……。初めて、アチシたちは目の前で死というものを見てしまったわ。 艦娘が轟沈してしまった時のような悲しみ。虚しさ。画面の向こうではなく、実際にそんな衝撃を経験してしまったのは、本当に初めてを喪失した時みたいだったわ……。 子日提督ちゃんとか、卯月提督ちゃんなら、きっとわかってくれるかもしれない。 もうそろそろ、何をするにしても穏便に交渉するのがいいはずだわ」 「そう、ね……」 龍田提督が語ったのは、規模が小さければ、何の変哲もないグループ内の不満でしかなかった。 事実、背後で頷いている第七かんこ連隊のヒグマたちを含め、第一、第四、第五、第六、第八、第九、ヒグマ提督など、艦これ勢の多くは元々タカ派ではなくハト派寄りだったと言える。 『パッションがスプラッシュした』とは言っても、ある種の事件をきっかけに不満が爆発しただけにしては、不自然な点も多い。 「……でもあなたたち、ただ激情で動いたにしては、組織立ち過ぎてるわ」 「ああ、それは穴持たず677――、ロッチナがうまく采配してくれたから。 近い仲間で固めてくれたから、喧嘩もせず過ごせていいわ♪」 続く龍田の疑問に、龍田提督はキャハッ、と華やいだ声を上げる。 聞き慣れないうちは一瞬背筋が寒くなりそうな裏声だった。 「アチシたち『姉妹丼勢』はね、本当姉妹が大好きなの! 見るもよし、なってもよし、ヤッてもよし! 本当に姉妹って素敵! 女の子同士の強固な繋がりって、やっぱり男なんていう汚らわしいブタどもにはない崇高さがあると思うの! ね、そうでしょ?」 「そうなの! この第七かんこ連隊はみんな、心の通じ合った義姉妹(ぎきょうだい)なのよ!」 「……そう」 周囲で浮かれあう重低音の声には突っ込みどころしかなかった。 何しろ全員ツッコむものがツイてるくらいなのだが、龍田には生憎と突っ込む体力などなかった。 代わりに彼女は、龍田提督に向けて、前々から気になっていた不安を恐る恐る切り出していた。 「……ということは、あなたなんかは、私や天龍ちゃんを、手籠めにしたいと思ってるわけ?」 「え、アチシが!? いやいや、そんなわけないじゃない! 勘違いしないでちょうだいな龍田さぁん!」 「そうよそうよ! 俺らなんかが龍田さんや天龍ちゃん襲うなんて、そんな失礼なこと有り得ないわ!」 「……どの口が言うのかしら」 先の喫茶店でこの連隊の50頭は、中破状態だった龍田のセクシーポーズに惹かれるようにして地下水脈へ落下していた。 どう考えても龍田には、彼らが自分の色気に惹かれた、引いては自分に性的欲求を持っているものだとしか思えないのだ。 だが彼らは、雁首を揃えて龍田の言葉を否定する。 「龍田さんは絶対に天龍ちゃんに看病してもらわなきゃ! そうして、命を懸けていた妹の姿に涙を零す姉! 熱に浮かされながらも気丈に微笑む妹! 傷だらけの肌に光る玉の汗! 透けるほどに濡れる下着! 少しずつ近づく唇! ベッド脇に生まれる、力強く甘い姉妹愛の花園! これよ! このシチュこそ最強でしょ!!」 「わかった。わかったわ……。わかりたくないけど、まぁ……」 龍田は熱弁を振るう彼らの主張を、頭痛を感じながら聞き流す。 とにかく自分や天龍などに危害を加えるつもりはないらしいことが分かっただけで、龍田には十分だった。 「あなたたちは、自分の好きな艦娘の名前を冠してるようだったから……。誤解するのも仕方ないでしょ?」 「ああ、それもそうかしら……。みんな基本的には、好きなものを名前にしてるものね」 「全員そうなの……?」 「ええ、チリヌルヲなんかは、深海棲艦みんな好きなの。それで特に、その『散りぬる(命が尽きてしまう姿)を』愛してるから。 深海棲艦どころじゃない守備範囲だから、今の龍田さんなんかは絶対にアイツの前に行っちゃダメ。トドメを刺されちゃう」 基本的に、艦これ勢の面々は生まれてからの生活のほとんどが艦これだったため、それ以外のもので自分を命名するというのが難しい傾向にある。 艦これに関連するものの中で一番自分の好きなものを名前にするというのは自然な流れであろう。 そうなってくると気になるのは、先ほどから第七かんこ連隊が合流を目指している、『ゴーヤイムヤ』というヒグマだ。 名称からは、2体の潜水艦の存在が漂ってくるのだが、『2体』というのはやはり特異な例に思える。 「さっきからあなたたちが期待している、ゴーヤイムヤというのは? 伊58と168が好きなわけ?」 「ゴーヤイムヤは……、色々複雑な事情があるのよ。 もともとあの子『たち』は、穴持たず158『苺屋(イチゴヤ)』さんと、穴持たず168『仏屋(ホトケヤ)』さんって呼ばれてた」 チリヌルヲ提督の例とは違い、龍田提督はその話を切り出す前にわずかに悲しげな顔を見せた。 「……ヒグマ帝国の事務班にいたの。シロクマさんの下ね。あの方はなんかお店の名前を付けるのが好きみたいで。 イチゴヤさんはすごい精度で胃の中のものを吐き出すことができて、ホトケヤさんは牙で色々な精密機械細工をすることができた。 帝国の発足当初は、色々忙しく働かされてたみたいよ、シーナーさんたちの身代わりとして研究所で振る舞ったりとか。 根回しとか計画性とか技術とか全部身に着けて……、大変だったでしょうねぇ……」 龍田提督の知っている限りでも、シロクマさんもとい司波深雪による研究所への欺瞞工作において、苺屋と仏屋という二体のヒグマは大きな役割を担っていたらしい。 消化液や胃石を吐き出して方々に侵入経路を作り、監視カメラや防犯機構に小細工を施していくなど、その活躍はなかなかに目覚ましいものがあったようだ。 「……でもそのうち、彼女たちはシロクマさんから忘れられていった。 楽しみにしていた喫茶店からも追い出されて、今までの功績なんてなかったかのように、一顧だにされなくなった」 同僚だったヤイコが、それでも粛々と事務を続けていたのに対して、シロクマの直属として大役を担っていた彼女たちの思いは、そんな風に我慢できるようなものではなかった。 「……第十かんこ連隊は、みんなそれこそ、潜水艦のように内に潜めた恨みや欲望を抱えたヤツばっか。 でもそれには、ちゃんと理由がある。みんな性根は、どこまでも真っ直ぐなヤツなのよ。 きっとあなたのことも助けてくれるはずだわ、龍田さん」 「そうデスか。アナタ方もみな共謀者でアルと」 龍田提督がにっこりと微笑んだ時だった。 水面から突如、おどろおどろしい淀みのような声が湧いた。 直後、その周囲一帯の水が逆巻き、瞬く間に50頭の第七かんこ連隊の全員を取り囲んでいた。 手足を封じ、首筋にぴたりと地下水が張り付いてくる。 そうしてその水は、驚愕に動けぬ龍田提督の耳元に、牙を剥き出して口を開いた。 「真っ直ぐだろうガ捻くれてヨウガ。私はアナタ方全員、3秒で溺死させてやれまスから。 ……覚悟してクダサイ。この、テロリストども……!」 ≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ 「Wake up……! Wake up――!!」 「起きろ! 起きるんだひまわりちゃん!!」 「起きて! お願いだよぉ!!」 「お願いしますうぅ――!!」 「……ふあ?」 四宮ひまわりが再び目覚めた時、周囲の人々の声は以前と違い、あまりにも必死だった。 ぜぇぜぇと上がる、荒い息の音が辺りを埋めている。 よくよく目を凝らせば、先ほどまではがらんどうだったはずの防空壕の空間には、道路の植え込みのように木の枝が茂っていた。 彼らは、暗闇の中で伸びてくる童子斬りの根を、ひまわりに強く声をかけながら踊り逃れ続けていたのだ。 「ひまわりちゃんが意識を失ってから、この根っこ、明らかに俺たちを狙って伸び始めやがった……! もう壁も床も天井も根っこだらけだ……!」 「ああ……、ごめん。なんか、のどが渇いて……」 ひまわりは右手でぎこちなく頬をかき、息をつく間桐雁夜に向けて平謝りする。 触れ合う自分の肌は、かさついている。 根は、ひまわりの右半身の方にまで侵食してきていた。 「そういえばひまわりちゃん、さっきまでお肌ぷにぷにだったのに……」 「そうか、海水だから……。塩分が高すぎて相対的に水分不足なんだわ。 そのために、手当たり次第に水分や養分を取ろうと根を伸ばしてきてるわけね」 田所恵が気づいたひまわりの異常に、合点がいったように布束砥信は舌打つ。 ここには、確かに大量の水が今も流れ込んで来てはいる。 しかしそれは津波によって流れ込んできた海水だ。 それは植物にも人体にも塩分濃度が高すぎて、逆に脱水をもたらす。 今まで童子斬りは土に染み込んでいた地下水を吸っていたために影響が出なかったが、それを吸い尽くしてしまえば、今度は流れ込む海水によってどんどん渇水状態になっていく。 どうにかしてひまわりの意識を保っておくことしか、今の彼らに童子斬りの伸長を防ぐことはできなかった。 「……どうやって、私の眼、覚ましたの?」 「撃ったわ。……そうするしかなかった。ごめんなさい」 ひまわりが当然の疑問を口にすると、布束は、童子斬りの生け垣の向こうから、彼女の右肩口を指さした。 視線を落とすと、ひまわりの肩には大きな銃創が開いている。 伸びてくる童子斬りのせいで近寄ることすらできなくなった布束が、最後の手段として、ドクター・ウルシェードのガブリカリバーで射撃していたのだ。 しかしその風穴にも、既に童子斬りが伸びてきて、傷を塞いでいる。 腕が動かしづらいのはこのせいだったか、と、ひまわりは一人納得した。 「お水! お水が必要ですよ! あの、あの、診療所には生食も蒸留水もあります!」 「点滴パックを瓦礫の中から掘り出すつもり……?」 「下には地下水脈があるようですけど、どちらにしろここから動けないことには……」 穴持たず104も田所恵も、方々に真水の行方を模索するが、その思考は大いなる不可能性に阻まれるだけだった。 「でも、朗報があるよ」 なおも沈鬱さに満ちる周囲に向け、ひまわりは努めて明るく言葉をかけた。 顔を上げた皆に向けて指をさす。 「服が完全に乾いた」 そこには、龍田のワンピース、布束の制服、恵の割烹着が童子斬りの根にひっかけられて揺れていた。 間桐雁夜を運ぶ、担架を作った際の衣類だった。 一瞬期待のこもった周囲の視線は、一気に愕然としたものに変わる。 「……ひまわりちゃん。君自身だけが頼りなんだ。君が童子斬りを支配することが唯一の解決策なんだ」 布束たちが呆れながらもパリッと乾いた衣服を回収している間、雁夜は必死にひまわりに向けて呼びかけていた。 彼女の顔面は、今や雁夜と同じように左半分を引きつらせていた。 左の眼は、もう濁って見えていないだろう。 壁にもたれるまま、もう動くことすらできない彼女の姿に、雁夜は自分の身を、そして蟲蔵に囚われ続けているのだろう遠坂桜のことを、思わずにはいられなかった。 「さっきも言いかけたけど、ちょっと試してみてくれ。心を通わせて……」 「申し訳ないけど、間桐さんなんかの指示に従いたくない」 だが、雁夜の呼びかけは、ひまわりににべもなく突っ撥ねられる。 彼女は今まで、ろくに雁夜の言うことに耳を貸してこなかった。 そしてそれは、これからも同じである、と、目を伏せた彼女の声音が如実に物語っていた。 「……いくら良い人ぶっても、あんな心の中見た後だし。 ロリコンで人妻寝取ろうとしてる人なんて最低……!」 「くそ……、ひどい言われようだ……ッ!」 「だって否定できないでしょ」 ひまわりは、歯噛みする雁夜を鋭くにらみつける。 四宮ひまわりには、この魔術師が、肉体的にも精神的にも汚らわしい男にしか思えなかった。 だから、ここまでの彼の言動も、全て偽善に思えるのだ。 シーナーの手によって一般公開されてしまった雁夜の独善的な妄想は、彼女にとってそれほど気味が悪く、衝撃的なものだった。 ひまわりの反応に溜息をつき、雁夜は慎重に言葉を選び、切り出した。 「確かに桜ちゃんや凛ちゃん、葵さんは特別だ……。 だが俺は……、女の人や子供はみんな――、好きなんだ!!」 童子斬りの生け垣の奥から身を乗り出し、拳を握りしめ、雁夜は力強く言い放つ。 一帯は、水を打ったように静まり返った。 女性陣は暫く絶句した後に、声に多少の恐怖を込めながらざわつく。 「……より一層ひどくなってませんか?」 「……輪をかけてキモい」 「Helplessね……」 「ペ、ペドフィリアの治療法、今度シーナーさんから聞いておきます……」 「違う! 違うから! 頼むから最後まで聞いてくれ!! どうしてこうなるんだ!! 葵さんにはホモ疑惑まで持たれるし……!!」 雁夜は一同の反応に頭を抱えて唸った。 彼にできることはもはや、半ばやけくそに叫ぶことだけだった。 「俺はそもそも、こんなに可愛らしい女子供が、ひどい目に遭うのが、許せない。耐えられないんだ!!」 そのまま彼は、爆発するかのように思いの丈をまくしたてた。 「恵ちゃんの料理はいつも美味かった。身に沁みるほどの心配りは、絶対にいいお嫁さんになれる。 ひまわりちゃんは機転も利くし、今も十分可愛いのにすごい伸びしろがある。モデルになっても大成できるかもしれない。 布束さんは自己演出の方法がわかってる。とても妖艶で、あえて抑えているのになお美しさが溢れてる! あんただって、看護師としちゃ落第かもしれないけど、人間だったらこっちが守ってやりたくなる愛くるしさに満ちてるんだよ! 魅力的だろ!? みんな素敵だろ女の子って!? これで好きにならずにいられるかってんだ!」 田所恵、四宮ひまわり、布束砥信、穴持たず104と、次々に指をさしながら雁夜は語る。 堰を切った津波のように、その言葉は止まらなかった。 「世界のニュースから悲しみが溢れて、人々は小さな虫みたいに蹂躙されていった……。 見るたびに痛ましさだけが募って。だから俺は、間桐の家を出奔してから、ジャーナリストになった。 中東への取材はいつも命がけだったよ。でも撮らずにはいられなかった」 それは身内にも、思い人にも言ったことのない、彼の率直な心情だった。 既に夫のある初恋の人への感情を、仕事によって断ち切ろうとしていたせいもあるかも知れない。 だがその職を選んだ根底はやはり、そんな初恋の人のような素敵な女性たちの命が、心無い争いによって奪われていく現実を、変えたいからに違いなかった。 「報道によって、世界の抑止力を振り向けることで、俺は彼女たちを守りたかった! 偽善でもいい。ロリコンと罵られてもいい。結局その行為は、俺がヒーローとして持て囃されたいだけの自己顕示欲なのかもしれない。 そのくせ最後は世論頼みの他力本願かよ間桐の血筋乙、とか言われてもいいよ! だけどな、ひまわりちゃん! 俺はただ君を、この場にいるみんなをどうにかして助けたいんだ! その心は誓って本当だ……!!」 肺の中の空気を絞りつくして、雁夜はへたり込んだ。 全身が傷みきった彼の体は、そうして大声を張り続けるだけでも、すぐに限界を迎えるのだった。 静まり返っていた女性陣は、しばらくして、互いの顔を見合わせた。 「か、患者さんから褒めてもらったの、初めてです……! 照れちゃいます」 「う、うん。それに、実は間桐さん、すごい尊い思想を持ってらしたんですね……」 「でもねぇ……。言ってるのが間桐さんだから、ちょっとありがたみ薄いね」 「面白いわね。男の人って魔法使いになるとみんなそういう思考になるの?」 「魔術師!! 魔法使いっていうと違う意味に聞こえるからやめてね!?」 布束から振られた淡泊な言葉に、雁夜は最後の力を絞って嘆く。 これでも言葉は届かなかったのかと、力なく彼は四宮ひまわりを見やる。 だが視線が合うと、彼女はかすかに、笑っていた。 「……ありがたみは薄いけど。真面目に聞くだけの価値は……、あったかな」 「そう……、か……! 良かった!」 雁夜は、顔をくしゃくしゃにして、笑っていた。 例えようもないほど醜いその表情も、なぜか今のひまわりには、すがすがしいものに見えた。 「じゃあもう一度だ! まず心を通わせるんだよ。この根っこになりきるような気持ちでさ! 無意識からそう思い込んで、阿頼耶識の力すら使う気概で……」 「……ああうん、ありがたみが薄いっていうのはさ。最初からそんなこと、わかってたから」 気を取り直して立ち上がった雁夜に向け、ひまわりは微笑んだまま呟く。 言うさなか、彼女の体には、目に見えて童子斬りの根が侵食を始めていた。 「でもおかげで確信はできたよ。阿頼耶識の力……。 『元型(アーキタイプ)』の、『発動機(エンジン)』、ね……」 息苦しさはない。 やはりただ、安堵感だけがある。 ひまわりは自分の周りに、数多のヒトを感じている。 そうして、彼女は何かを探すのだ。 何を探しているのか、もう少しで思い出せそうだった。 「……私もおなか、空いてたんだ」 そうして四宮ひまわりはまた、赤いジャムの中で泳ぐ夢を見る。 ≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ 「……投降してくだサイ。少しでも怪しい動きをすれば、皆殺しデス……!!」 ビショップヒグマが第七かんこ連隊の一同を脅しつけていたのは、滝のように上層から下水が流れ込んでくるその地点、診療所の真下だった。 方や南方、方や北方から診療所を目指して地下水脈を渡ってきていた両者が、タイミング良くこの位置で出会ってしまっていたのである。 わずかにでも聞こえた会話から、この大量のヒグマたちが艦これ勢という反乱分子の一味であると推定することは、ビショップヒグマにとってあまりにも簡単なことだった。 「ピ、ピースガーディアンのビショップさんね!? 良かった! 投降するに決まってるじゃない! アチシたちは捕虜にでもなんにでもなるから、早く龍田さんを診療所で治療してあげて!!」 「……ハァ?」 だが、取り押さえたヒグマから返ってきた返答は、予想外のものだった。 ビショップヒグマが反応できないでいる間にも、50頭のヒグマは喜び勇んで抱えていた装備を手放し始める。 良かった良かった、とか、これで龍田さん助かるわぁ、とか、診療所に他に姉妹いるかしら、など、口々に和んだ会話を始める一同に、ビショップヒグマはひたすら困惑した。 「あの、ちょっとちょっと……。アナタ方は診療所を襲ってきた艦これ勢の仲間では無いのデスカ?」 「え? 仲間だけど。ビショップさんがここにいるってことは、さしものゴーヤイムヤも返り討ちにあったってことでしょ? アチシたちは投降するから、早く龍田さんを上にあげてあげてよ」 「あ、うん……。そうできたらよかったンデスけどネ……!」 まだ拘束を続けているのにも関わらず、龍田提督から返ってきた緊張感のない言葉に、ビショップは思わず苛立ちを噴火させずにはいられなかった。 「そのゴーヤイムヤとかいう輩のせいで診療所は倒壊シマシタよ!! 力不足であいスミマセンでしたネェ!!」 「えぇ!? 倒壊!?」 驚くのにもいちいちシナを作る龍田提督の言動の一つ一つが、今のビショップには神経を逆なでするもののように思えた。 それでもようやく彼も状況を理解できたようで、切羽詰まった声音で問い返してくる。 「第十にはゴーレムちゃんがいるはずよ!? 制圧されるにしても穏便に済んでないの!?」 「何言ってるんデスか!! 殺意マンマンでシたよ!?」 そうして一斉にざわつき始める第七かんこ連隊の様子に、ビショップはやりづらさばかり感じた。 ゴーレム提督、またはレムちゃんという存在は、艦これ勢の一員でありながら、直近までこの診療所に勤務していた者に他ならない。 診療所を制圧しに向かっていた潜水勢の中に彼女がいたことから、第七かんこ連隊のメンバーは当然、診療所は無血開城ないしそれに近い形で決着するのだろうと予想していた。 どうやら互いにとって、この状況は本当に想定外だったらしい。 「ゴーレムちゃんは作戦行動から外されてるのかしら……。 ゴーヤイムヤの恨み節だけだったら、確かに診療所みんなヤられかねないわ。 ヤスミンさんが人間と通じてたって前科もあるし……」 「なんデスかその言いがかりは……! 仮にそうだったとしてもヤスミンさんだけの問題でショう!?」 「組織の者の失態は、トップや組織自体の責任なのよ。特にゴーヤイムヤにとってはね……」 龍田提督は一度唸った後、首元に這い登ってくる水に向けて、屈んで無理やり上目づかいを作りながら、嘆願した。 「まだ戦闘は続いてるのよね!? ゴーヤイムヤはアチシたちが説得するわ! それが終わったらアチシたちはどうなってもいい!! 何でもするわ!! 女に二言はないもの!! だから、龍田さんは助けてあげて!! お願いよ、ビショップさん!!」 「龍田サン……、ですか……」 あなたは生物学的にオスじゃないか、とビショップはよくよく言いたくなったが、あまりにも彼が真剣だったために、野暮な突っ込みはいつの間にか喉の奥から消えていた。 見やれば、龍田提督の後ろで隊員に抱えられているのは、全身を傷だらけにした少女だった。 片腕は千切れ、半身を広範な爆風に焼かれて意識も朦朧として見える。 騒動に目は覚ましているようだが、状況が把握できていないのか気力がないのか、口を開きはしない。 だがその少女は間違いなく、示現エンジンへ向かい、ヒグマ帝国に協力してくれたという艦娘、龍田に他ならなかった。 的確に送られていた苔の通信文を思い返し、ビショップは嘆息した。 「上に、テンシさんがいるハズでス……。急ぎ、診てもらいまショう……!」 「ありがとう! そうこなくっちゃ♪ ビショップさんも良かったらアチシたちの姉妹にならない?」 「遠慮サセテクダサイ。イヤ、マジデ」 ≠≠≠≠≠≠≠≠≠≠ 間桐雁夜が四宮ひまわりに思いをぶちまけていた直後、穴持たず104の耳に、届くものがあった。 それはこの根っこだらけになった防空壕のさらに下層から、彼女の名を呼ぶ声だった。 「あっ! ビショップさん! ビショップさんですよ!! ビショップさんが戻ってきてくれました!!」 「Really!? この上ないタイミングだわ。これ以上ここが持つかわからなかったもの」 「テンシさん、ちょっとドイテくだサイ! ここちょっと広げますノデ!」 地下水脈を逆走してきたビショップヒグマの声は、即席防空壕に押し込められていた一同には救世主に聞こえた。 そして救世主は、さらなる助っ人をつけて、来訪したようだった。 「みんなぁ! トコロテンで、おしとやかに仰角つけなさぁい!!」 「はにょぉおぉぉぉぉおぉぉぉ!! イクよぉおぉぉおぉぉ!!」 身を引いたテンシや布束の前で、地下の泥が下から次々と吹き飛ばされた。 控えめながら数多くの高角砲の砲弾を受けて、地下水脈へと流れ落ちていく滝口が広がり、そこからヒグマが這い上がってくる。 「だ、誰!?」 「はぁい♪ あらあら、布束さんとか、人間も沢山来てたのねぇ~。アチシ、第七かんこ連隊の龍田提督よ♪」 「Enemyじゃないの……ッ!!」 筋骨隆々たるそのヒグマに怖気づく田所恵の前に、布束砥信が立ちはだかって身構える。 だが龍田提督は、ちょびちょびと爪を打ち振って否定の意を示した。 「敵になるつもりないわよ~! ここからもう一回上にあがって、ゴーヤイムヤ説得してあげるから! それよりテンシちゃん! お願いよぉ~! 龍田さん診てあげて!!」 「ひゃい!?」 「龍田さん……!?」 「龍田……!?」 唐突に呼ばれた穴持たず104の前に、下から隊員の手によって慎重に少女の体が運び上げられてくる。 奥で固唾を呑んでいた雁夜や、ぼんやりとしていた四宮ひまわりまでもが、思わず声を漏らした。 「What s happened to you!? 龍田、どうしたのよこの傷は!?」 「ひどい……、こんな火傷して……!!」 「あわ、あわわ、どうしましょう……!?」 テンシがまごつく中、布束や恵が駆け寄ると、横たえられた龍田はかすかに微笑んだ。 「……シロクマさんというあの子、助けられなかったのよ。ここの王も、ツルシインさんも、戦死したわ」 「は……!?」 龍田の言葉で硬直したのは、まだ階下から第七かんこ連隊の面子を引き上げ続けていたビショップヒグマだった。 一度龍田と同行していた恵や布束も十分驚いたが、彼女にとって、その知らせはまさに寝耳に水だった。 「ちょ、ちょっと……! 待ってクダサイ!! キングさんや、ツルシインさん、シロクマさんが……、死んだ!?」 「シロクマさんはわからない……。でも私も、キングさん、ツルシインさん、皆、『シバさん』という男が起こした爆発で吹き飛んだ」 「あ、あ、あ……」 ビショップヒグマは、微かな呻きだけを下層で絞り出し、動けなくなっていた。 頭が真っ白になって、何が何だかわからなくなった。 直属の上司が、大失態を起こしたのだ。 大失態どころではない。人死にが出ているのだ。 国会で妹が人質に取られているからと、防衛大臣が爆弾を持ち込んで国土交通大臣と総理大臣と秘書を巻き添えにその犯人を爆殺しにかかったようなものだ。 そして結局、その犯人も妹も本人も生死不明であるという、国辱に等しい、いや、国辱というのすら生温い失態だった。 誰もが絶句した中で、その時唯一動けたのは、間桐雁夜だった。 「経緯なんて、後でいいだろ! 今はとにかく、龍田さんの手当てだよ!」 「は、はふぃ!」 自身もびっこを引きながら、雁夜は力の入らない腕で精いっぱいテンシの背を叩いた。 こうした状況は、彼がフリーのジャーナリストとして駆け回っていたころに、幾度も遭遇した場面だった。 考えるより先に、体が動いていた。 「何にもないから……、とりあえず応急処置を! 布束さん! さっきの乾いた服!」 「……あ、そ、そうね。取り込んでいたわ」 雁夜は、後ろの布束に即座に指示を出した。 先ほど乾ききった龍田のワンピースを受け取り、血と爆風で汚れたブラウスの代わりに龍田に着させようとする。 「……塩、吹いてるわ」 「あ……ッ」 だが、その行為は、龍田の苦笑にさえぎられる。 濡れたのが津波の海水だったために、当然乾燥した衣服には大量の塩がついていた。 これを傷口の上に着させるなど、拷問以外の何物でもない 「……間桐さん、やっぱり汚しちゃったのね~……」 「くそ、済まない、龍田さん……!」 「洗って返してくれればいいわ……。返せたら、ね~……」 龍田の微笑みは、諦観だった。 自分の命が長くないだろうことを、悟っている表情だった。 蟲蔵に放り込まれ続けていた遠坂桜のような、雁夜の大嫌いな表情だった。 「おおお――! 『Nachat (セット)』!!」 雁夜はその時、全身を震わせて叫んでいた。 固く閉じた口から血が滴り、眼の端や鼻の血管が切れ、血しぶきを吹く。 だがそれを意に介さず、雁夜は龍田の焼けただれた右半身に手を当てていた。 「『Golos v e toy ruke(声はこの手に)』――。 『Krov spokoyno nad vami(血は静かにキミを巡る)』」 雁夜の口から、ロシア語の旋律が溢れる。 それは間桐家の魔術の、源流の基礎にあたる呪文だった。 すると手を当てられていたところから、龍田の火傷の腫れが徐々に引いてくる。 苦しげだった龍田の呼吸も、次第に深く、落ち着いたものになってきていた。 「これ、は……」 「間桐の魔術は、水属性の吸収と支配だ……。体液の分配を部分的に操作し、整流してる。 火傷から少しでも体液の損失が防げるように……。ただの手当だけど、多少はマシになるかと……!」 滴る口内の血を飲み下し続けながら、雁夜は必死に体力を振り絞った。 それでも、彼が期待するほど劇的な変化は、龍田の体には見られない。 彼の魔術回路を形成していた刻印虫が死滅したためだ。 雁夜は生来のわずかな魔術回路を、ぼろぼろの肉体に鞭打つことでしか魔術を使えず、なおかつその効果もあまりに微々たるものに過ぎなかった。 「魔術回路が壊滅したから……。忌み嫌っていた間桐の魔術を使ってもこの程度しか……。すまない……!」 「あらそう~。その割には、しっかりしてるじゃない……?」 涙がこぼれそうになる彼の様子に、龍田は、いささか張りの戻った声で、笑った。 彼女が見つめる先には、胸元におかれた、雁夜の右手があった。 それは爆風でめくれたブラウスの下にある、龍田の豊かな膨らみを掴んでいた。 「あ、いや、これは、違……ッ!!」 「その手、落ちても知らないですよ~?」 慌てて手を離した雁夜の前に、勢いよく風が吹き抜ける。 励起された彼の魔力に引き寄せられてきたらしい童子斬りの根が幾本か、まとめて分断されていた。 尻餅をつく彼の前に、半身を唐紅に染め上げたその少女が、自前の薙刀を携えて微笑んでいた。 「龍田さんが……、立った……!」 龍田提督が息を飲む。 片腕を失い、爆風に焼かれ、襤褸のような衣服だけになっても、その風の神の名を冠した軽巡洋艦は、端然と地にその脚をついていた。 「ありがと~。それじゃあ、行きましょうか~? ここで立ち止まってても、仕方ないものね?」 【C-6 地下・ヒグマ診療所奥防空壕/午後】 【龍田・改@艦隊これくしょん】 状態:左腕切断(焼灼止血済)、大破、右半身に広範な爆傷、ワンピースを脱いでいる(ブラウスとキャミソールの姿)、体液損耗防止魔術付与 装備:三式水中探信儀、14号対空電探、強化型艦本式缶、薙刀型固定兵装 道具:なし [思考・状況] 基本思考:天龍ちゃんの安全を確保できる最善手を探す。 0:そうね。経緯なんて、後でいいわ。今はできることを、するの。 1:人間が自分から事故起こしてたら世話ないわよ……。 2:この帝国はなんでしっかりしてない面子が幅をきかせてたわけ!? 3:ヒグマ提督に会ったら、更生させてあげる必要があるかしら~。 4:近距離で戦闘するなら火器はむしろ邪魔よね~。ただでさえ私は拡張性低いんだし~。 [備考] ※ヒグマ提督が建造した艦むすです。 ※あら~。生産資材にヒグマを使ってるから、私ま~た強くなっちゃったみたい。 ※主砲や魚雷はクッキーババアの工場に置いて来ています。 【龍田提督@ヒグマ帝国】 状態:『第七かんこ連隊』連隊長(姉妹丼勢) 装備:探照灯、高角砲など 道具:姉妹愛、姉妹、百合 [思考・状況] 基本思考:ヒグマ帝国を乗っ取る傍ら、姉妹愛を追い求める。 0 ロッチナの下で姉妹愛を追い求める。 1 姉妹愛の素晴らしさを布教する。 2 邪魔なヒグマや人間にも姉妹の素晴らしさを広める。 3 暫くの間はモノクマに同調する。 4 龍田さんを守る ※艦娘や深海棲艦の姉妹愛は素晴らしいとしか思っていません。 ※『第七かんこ連隊』の残り人員は50名です。 【穴持たず203(ビショップヒグマ)】 状態 健康 装備 なし 道具 なし 基本思考:“キング”の意志に従う?????????? 0:キング、さん……。シバさん……! 1:スミマセンベージュさん……。アナタを救えなかった……!! 2:……どうか耐えていて下サイ、夏の虫たち!! 3:球磨さんとか、通信の龍田さんとか見る限り、艦娘が悪い訳ではナイんでスよね……。 4:ルーク、ポーン……。アナタ方の分まで、ピースガーディアンの名誉は挽回しまス。 5:シバさんとアイドルオタクは何やってるんデスかホント!! アーもう!! [備考] ※キングヒグマ親衛隊「ピースガーディアン」の一体です。 ※空気中や地下の水と繋がって、半径20mに限り、操ったり取り込んで再生することができます。 ※メスです。 【穴持たず104(ジブリール)】 状態:狼狽 装備:ナース服 道具:なし [思考・状況] 基本思考:シーナーさん、どうか無事で……。 0:何が起きてるの!? 何が起きてるの!? 1:レムちゃん……、なんでぇ、ひどいよぉ……!! 2:ベージュさん、ベージュさぁん……!! 3:応急手当の仕方も勉強しないとぉ……!! 4:夢の闇の奥に、あったかいなにかが、隠れてる? [備考] ※ちょっとおっちょこちょいです 【布束砥信@とある科学の超電磁砲】 状態:健康、ずぶ濡れ(上はブラウスと白衣のみ) 装備:HIGUMA特異的吸収性麻酔針(残り27本)、工具入りの肩掛け鞄、買い物用のお金 道具:HIGUMA特異的致死因子(残り1㍉㍑)、『寿命中断(クリティカル)のハッタリ』、白衣、Dr.ウルシェードのガブリボルバー、プレズオンの獣電池、バリキドリンクの空き瓶、制服 [思考・状況] 基本思考:ヒグマの培養槽を発見・破壊し、ヒグマにも人間にも平穏をもたらす。 0 暁美ほむらたち、どうか生き残っていて……!! 1 キリカとのぞみは、やったのね。今後とも成功・無事を祈る。 2 『スポンサー』は、あのクマのロボットか……。 3 やってきた参加者達と接触を試みる。あの屋台にいた者たちは? 4 帝国内での優位性を保つため、あくまで自分が超能力者であるとの演出を怠らぬようにする。 5 帝国の『実効支配者』たちに自分の目論見が露呈しないよう、細心の注意を払いたい。が、このツルシインというヒグマはどうだ……? 6 駄目だ……。艦これ勢は一周回った危険な馬鹿が大半だった……。 7 ミズクマが完全に海上を支配した以上、外部からの介入は今後期待できないわね……。 [備考] ※麻酔針と致死因子は、HIGUMAに経皮・経静脈的に吸収され、それぞれ昏睡状態・致死に陥れる。 ※麻酔針のED50とLD50は一般的なヒグマ1体につきそれぞれ0.3本、および3本。 ※致死因子は細胞表面の受容体に結合するサイトカインであり、連鎖的に細胞から致死因子を分泌させ、個体全体をアポトーシスさせる。 【田所恵@食戟のソーマ】 状態:疲労(小)、ずぶ濡れ 装備:ヒグマの爪牙包丁 道具:割烹着 [思考・状況] 基本思考:料理人としてヒグマも人間も癒す。 0:龍田さん! 大丈夫ですか!? 1:もどかしいなぁ……。料理以外出来ない私が……。 2:研究所勤務時代から、ヒグマたちへのご飯は私にお任せです! 3:布束さんに、落ち着いたらもう一度きちんと謝って、話をします。 4:立ち上げたばかりの屋台を、グリズリーマザーさんと灰色熊さんと一緒に、盛り立てていこう。 【間桐雁夜】 [状態]:刻印虫死滅、それによる内臓機能低下・電解質異常、バリキとか色々な意味で興奮、ずぶ濡れ [装備]:なし [道具]:龍田のワンピース [思考・状況] 基本行動方針:聖杯を桜ちゃんの元に持ち帰る 0:俺は、桜ちゃんも葵さんも、みんなを救いたいんだよ!! 1:俺のバーサーカーは最強だったんだ……ッ!!(集中線) 2:俺はまだ、桜のために生きられる!! 3:桜ちゃんやバーサーカー、助けてくれた人のためにも、聖杯を勝ち取る。 [備考] ※参加者ではありません、主催陣営の一室に軟禁されていました。 ※バーサーカーが消滅し、魔力の消費が止まっています。 ※全身の刻印虫が死滅しました。 【四宮ひまわり@ビビッドレッド・オペレーション】 状態 疲労(小)、ずぶぬれ、寄生進行中、『眠い』 装備 半纏、帝国産二代目鬼斬り(2/3) 道具 オペレーションキー [思考・状況] 基本思考:この研究所跡で起こっていることの把握 0:……くそ眠い。 1:ネット上に常駐してるあのプログラムも、エンジンを止めた今無力化されてるか……? 2:龍田……、大丈夫……? 3:れいちゃんは無事なんだろうか……!? 4:この根を張ってるとお腹が一杯になる。どうにかいい制御法があればいいんだけど。 5:間桐さんは変態。はっきりわかんだね。 [備考] ※鬼斬りに寄生されました。 ※バーサーカーの『騎士は徒手にて死せず』を受けた上に分枝したので、鬼斬りの性質は本来のものから大きく変質している可能性があります。
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STUDYの研究員たち スタディのけんきゅういんたち(有冨春樹、布束砥信を除く) NO IMAGE 参戦作品:とある科学の超電磁砲登場本数:――本 桜井純 「……やはりヒグマも、美しいものには惹かれるのよ!」 127 御嬢さん、お逃げなさい ◆kiwseicho2 131 Licorice Leaf ◆wgC73NFT9I 150 Archetype Engine ◆wgC73NFT9I 160 悟浄出世 ◆wgC73NFT9I 関村弘忠 『虫も殺せないのにヒグマが殺せる? ハハ、ワロスww』 150 Archetype Engine ◆wgC73NFT9I 160 悟浄出世 ◆wgC73NFT9I 斑目健治 「じゃあ空を飛べるから『空飛ぶクマ』!!」 150 Archetype Engine ◆wgC73NFT9I 160 悟浄出世 ◆wgC73NFT9I 小佐古俊一 『まぁ現実問題、枝がまっすぐに伸びてもヒグマは叩き折るでしょ』 150 Archetype Engine ◆wgC73NFT9I 160 悟浄出世 ◆wgC73NFT9I キャラ別追跡表 STUDY研究員 ギルガメッシュ ウェイバー・ベルベット ライダー その他魔術師 デデンネ カツラ サトシ タケシ パッチール カーズ ふなっしー 宮本明 西山正一 忍者 夢原のぞみ 円亜久里 相田マナ エレン・イェーガー 武藤遊戯 永沢君男 丸尾末男 暴君怪獣タイラント 回転怪獣ギロス カズマ 劉鳳 ソーニャ 折部やすな 司波達也 司波深雪 狛枝凪斗 アーカード クリストファー・ロビン 跡部景吾 ウォーズマン 黒木智子 纏流子 古明地さとり 球磨川禊 碇シンジ 鷹取迅 武田観柳 阿紫花英良 フォックス ブラキディオス しんのゆうしゃ 吉村崇 江田島平八 ミスト・レックス 範馬勇次郎に勝利したハンター 坂田銀時 銀 ハザマ(ユウキ=テルミ) 古館伊知郎 高橋幸児 なんか7が三つ並んでる名前の外人 一流のロッククライマー クッキーババア 天野河リュウセイ 赤屍蔵人 ラインハルト・ハイドリヒ 不動明 ベン バンディット リッド・ハーシェル コロッケ 源静香 イチロー フランドル 灰色熊 鷲頭巌 総統 吉田君 レオナルド博士 フィリップ 菩薩峠君 チャック・ハンセン ハーク・ハンセン 杉下右京 山岡銀四郎 ヴァン 迷い込んだ突然変異の巨大ツキノワグマ 白人男性 名簿の背景色・マークの説明 ■黒背景=ヒグマ・ロワイアルの実験参加者を意味します。 ■黄背景=ヒグマ・ロワイアルの実験に関連したヒグマ(HIGUMA)であることを意味します。 ■緑背景=支給品(支給人)だったことを意味します。 ■青背景=実験開始後に外部からやってきた闖入者を意味します。 ■紫背景=ヒグマ・ロワイアルの実験主催者を意味します。 首輪マーク=実験参加者(首輪をされてカウントされている)を意味します。 爪マーク=ヒグマであることを意味します。 リボンマーク=支給品(支給人)だったことを意味します。 飛行機マーク=実験開始後に外部からやってきた人間を意味します。 クリップマーク=ヒグマ・ロワイアルの実験主催者を意味します。 ※基本的に、第二回放送以降まで生き残っている者、闖入者の場合は3話以上生存を基準にアイコン化します(例外はある)。
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あ行 か行 さ行 た行 な行 は行 ま行 や行 ら行 わ行 あ行 アウレオルス=イザード アウレオルス=ダミー 青髪ピアス アガター 一方通行(アクセラレータ) アケミ アックア アニェーゼ=サンクティス 姐御 天井亜雄 アレイスター=クロウリー 泡浮万彬 アンジェレネ アンナ=シュプレンゲル 絶対等速(イコールスピード) 諫早 五和 イネス インデックス ヴァルキリー ヴィース=ワインレッド 初春飾利 ウィリアム=オルウェル ヴィリアン ヴェント ヴォジャノーイ 牛深 薄絹休味 海原光貴 浦上 エイワス エカリエーリャ=A=プロンスカヤ 枝先絆理 エツァリ エリザード エリザリーナ 丘原燎多 オッレルス オティヌス 親船最中 親船素甘 オリアナ=トムソン オルソラ=アクィナス か行 介旅初矢 貝積継敏 カエル顔の医者 垣根帝督 風斬氷華 カナミン 神の力(ガブリエル) 鎌池和馬 上条詩菜 上条当麻 上条刀夜 亀山琉太 神裂火織 神裂キゴミ 絹旗最愛 木原数多 木原幻生 木原那由他 キャーリサ 木山春生 釧路帷子 雲川芹亜 工山規範 クランス=R=ツァールスキー 郭 黒妻綿流 黒夜海鳥 傾国の女 ゲコ太 原石の少女 工示雅影 鋼盾掬彦 鴻野江遥希 香焼 ゴーグルの少年 固法美偉 駒場利徳 婚后光子 さ行 サーシャ=クロイツェフ 災誤 坂島道端 佐久辰彦 佐天涙子 査楽 山岳達子 ジーンズ店主 シェリー=クロムウェル 潮岸 妹達(シスターズ)その他の妹達 重福省帆 城南朝来 丈澤道彦 ジョージ=キングダム 食蜂操祈 ショチトル 白井黒子 シルバークロース=アルファ シルビア 杉谷 スクーグズヌフラ 鈴科百合子 ステイル=マグヌス/ステイル=マグヌス ステファニー=ゴージャスパレス 砂皿緻密 スフィンクス セイリエ=フラットリー セリック=G=キールノフ ソールジエ=I=クライコニフ 削板軍覇 た行 大圄 第六位 滝壺理后 竜神乙姫 建宮斎字 タメゾウ 月詠小萌 対馬 土御門舞夏 土御門元春 ディグルヴ テオドシア=エレクトラ テクパトル 手塩恵未 鉄装綴里 鉄網 テッラ テレスティーナ=木原=ライフライン トチトリ トマス=プラチナバーグ トリック な行 騎士団長(ナイトリーダー) ニコライ=トルストイ 布束砥信 野母崎 は行 灰村キヨタカ 博士 服部半蔵 パトリシア=バードウェイ 馬場芳郎 浜面仕上 原谷矢文 春上衿衣 バルビナ ビアージオ=ブゾーニ 微細乙愛 ビットリオ=カゼラ 一一一 火野神作 ビバリー=シースルー 姫神秋沙 フィアンマ 吹寄制理 ブラッシャ=P=マールハイスク フレイス フレメア=セイヴェルン フレンダ=セイヴェルン フロリス ベイロープ ペテロ=ヨグディス 蛇谷次雄 ま行 マーク=スペース マコちん マタイ=リース ミサカ10777号 御坂妹(10032号) 御坂旅掛 御坂美琴 御坂美鈴 番外個体(ミサカワースト)その他の妹達 むーちゃん 麦野沈利 結標淡希 心理定規(メジャーハート) や行 柳迫碧美 山手 闇咲逢魔 横須賀 芳川桔梗 四葉 黄泉川愛穂 ら行 打ち止め(ラストオーダー) ランシス リチャード=ブレイブ リドヴィア=ロレンツェッティ リメエア 寮監 ルチア レヴィニア=バードウェイ レッサー ローラ=スチュアート ロンギエ わ行 ワシリーサ 湾内絹保
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【種別】 人名 【元ネタ】 数の単位である 那由他 【初出】 偽典・超電磁砲収録 「とある自販機の存在証明」 新約4巻で本人に関する言及 【解説】 先進教育局、特殊学校法人RFO所属の風紀委員。 御坂美琴よりも背が低い、金髪ツインテールの少女。 小学生であるため、赤いランドセルを背負っている。 能力は『AIM拡散力場と、その力そのものを「見て」「触れる」事ができる』というもの。 要するに滝壺理后の『能力追跡』の劣化版。 しかし、滝壺とは違い体晶を必要としないという利点があり、 訓練次第では高レベルになる可能性を秘めている。 また、親戚のおじさんから一族秘伝の体術の指南を受けており、 体術 に人間とは思えない『速さ』と能力を組み合わせた、接近戦を得意とする。 その素性は、数々の実験により学園都市で地位を築いている『木原一族』の一人。 進んで自分の体を研究の実験体として提供し続ける木原の異端児。 金髪などといった一見すると外人に見えるその外見も、実験に自らの身を提供し続けた結果である。 一族によるエリート教育を受け、幼い頃から高度な実験も行っていた。 しかし「実験体を壊すことで限界を研究するのが第一歩」と考える一族の中で 彼女の実験は「実験体の安全まで完全に配慮していた」為、 一族内では落ちこぼれ扱いを受けている。欠陥品扱いされることもしばしば。 不自由になることは無かったが、悔しさと得体のしれない物足りなさを感じていた。 ある日、かつての先進教育局で枝先絆理ら『置き去り』の子供達に出会う。 何度も施設に通ってる内に10人の置き去り達と友達となり、彼らの環の中に完全に入った瞬間、 彼女がそれまで感じていた物足りなさは、その『初めてできた友達』の存在によって補われた。 しかし数ヵ月後、「暴走能力の法則解析用誘爆実験」により絆理らは、こん睡状態に陥ってしまう。 実験の責任者であり、絆理達の信頼を結果として裏切った木山春生に恨みを向け、 復讐するために力を得ようとする。 だが、復讐する力だけでなく絆理達との約束である風紀委員としての純粋な力、 そして実験の犠牲となる子供達が減ることをも同時に望んだ。 自身の境遇や、『置き去り』の友人達との経験から、『欠陥品』を侮辱することは決して許さない。 その望みを叶える為に「自分が様々な実験の実験台になる」決断を下し、 ありとあらゆる過酷な実験にその身を提供した。 布束砥信による学習装置の人体実験などにより現在の能力を開花させたが、 学園都市とは異質の力を注ぎ込む実験を受けた際、あちこちが爆発して吹き飛ぶ重傷を負う。 カエル顔の医者の尽力によって一命は取り留めたが、全身の七割以上が義体となっている。 この義体すらも実験の一部であり、木原一族謹製の技術で作られたAIM拡散力場制御義体なる物。 これらの実験で得られた莫大な報酬は全て置き去りの施設に寄付している。 これは、施設が資金目当てで子供達を実験に差し出すことが無くなるのを期待したため。 月日が経ったある日、木山春生の真意、 そして彼女の計画が超電磁砲によって潰されたことを知ることとなる。 木山の行動は感心できることではないし美琴の正当性も分かってはいたが、感情としては割りきれなかった。 そこで、超電磁砲が憧れの超能力者として相応しいかどうかを見極めるために観察を開始する。 その初日に御坂がいつもの自動販売機に回し蹴りしているのを発見、 風紀委員としての仕事を口実に美琴に戦いを挑み、能力や擬体の性能を駆使して善戦。 だがそこに削板軍覇が割り込み、 (きっかけを作ったのは他でもない那由他であるが)何故か発展した超能力者同士の戦闘を目の当たりにし、 自分とレベル5には実力に大きな溝があるのを思い知る。 さらにその後、能力開発すら受けていない人物が超能力者を拘束するという、 信じられない光景を目の当たりにする。 最後は戦闘の疲労と混乱の絶頂により気絶し、その後は寮監におんぶされながら病院へと運ばれた。 彼女の経歴からすると、テレスティーナの実験は最も妨害すべきものであるが、 美琴との戦闘で義体の47%が破損し、修復に10日かかるため妨害することができなかった。 (時系列的に、テレスティーナの実験はとある自販機の存在証明から10日以内なのは確実である)
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キャラ別追跡表 とある科学の超電磁砲 佐天涙子 初春飾利 御坂美琴 白井黒子 布束砥信 有冨春樹 仮面ライダー龍騎 浅倉威 北岡秀一 ジョジョの奇妙な冒険 ウィルソン・フィリップス上院議員 ストーンオーシャンのグリーンドルフィン刑務所で豚の反対は鮭だぜとイカしたことを言った黒人調理師のおばさん ウェカピポの妹の夫 カーズ 彼岸島 宮本明 西山正一 忍者 怪物王女 フランドル ウルトラマンタロウ 暴君怪獣タイラント ニードレス 左天 魔法少女まどか☆マギカシリーズ 巴マミ 暁美ほむら 佐倉杏子 キュゥべえ 呉キリカ プリキュアシリーズ 夢原のぞみ 円亜久里 相田マナ 実写版デビルマン 不動明 進撃の巨人 ジャン・キルシュタイン エレン・イェーガー ラブライブ! 星空凛 キルミーベイベー ソーニャ 折部やすな 艦隊これくしょん 球磨 天龍 島風 ビスマルク 金剛 天津風 那珂 龍田 扶桑 HELLSING アーカード D-LIVE!! ベン ニンジャスレイヤー バンディット テイルズオブエターニア リッド・ハーシェル コロッケ! コロッケ 平成ノブシコブシ 吉村崇 キン肉マン ウォーズマン スーパーロボット大戦K ミスト・レックス ドラえもん 源静香 キルラキル 纏流子 Fate/zero バーサーカー ギルガメッシュ 間桐雁夜 言峰綺礼 ウェイバー・ベルベット ライダー ちびまる子ちゃん 永沢君男 丸尾末男 グラップラー刃牙 範馬勇次郎に勝利したハンター 銀魂 坂田銀時 流れ星銀 銀 コピペ イチロー 私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い! 黒木智子 るろうに剣心 武田観柳 からくりサーカス 阿紫花英良 東方project 古明地さとり SASUKE 古館伊知郎 ダブルブリッド 高橋幸児 フリーゲーム? なんか7が三つ並んでる名前の外人 HUNTER×HUNTER 一流のロッククライマー プーさんのホームランダービー クリストファー・ロビン テニスの王子様 跡部景吾 北斗の拳 フォックス 荒野に獣慟哭す アニラ(皇魁) 魁!!男塾 江田島平八 めだかボックス 球磨川禊 モンスターハンター ブラキディオス シャドウゲイト しんのゆうしゃ 遊☆戯☆王 武藤遊戯 グリズリーマザー スクライド カズマ 劉鳳 最終痴漢電車3 鷹取迅 ゆるきゃら ふなっしー メロン熊 くまモン クマー ブレイブルーシリーズ ハザマ(ユウキ=テルミ) 山月記? ヒグマになった李徴子 陳郡の袁さん 仮面ライダー鎧武 駆紋戒斗 クッキークリッカー クッキーババア 人造昆虫カブトボーグV×V 天野河リュウセイ GetBackers-奪還屋- 赤屍蔵人 Dies irae ラインハルト・ハイドリヒ ビビッドレッド・オペレーション 黒騎れい 四宮ひまわり 新世紀エヴァンゲリオン 碇シンジ スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園 狛枝凪斗 モノクマ パシフィック・リム チャック・ハンセン ハーク・ハンセン 秘密結社鷹の爪 総統 吉田君 レオナルド博士 フィリップ 菩薩峠君 相棒 杉下右京 羆嵐 山岡銀四郎 獣電戦隊キョウリュウジャー Dr.ウルシェード アカギ 鷲頭巌 ザ☆ウルトラマン 回転怪獣ギロス ガン×ソード ヴァン MTG 灰色熊 妄想オリロワ2 ジャック・ブローニンソン 仮面ライダーウィザード 操真晴人 全開ロワ キュゥべえ ポケットモンスターシリーズ デデンネ カツラ サトシ タケシ パッチール 魔法科高校の劣等生 司波達也 司波深雪 ヒグマ・ロワイアル 迷い込んだ突然変異の巨大ツキノワグマ 白人男性 穴持たず1 穴持たず13 穴持たず47 穴持たず49 穴持たず50 穴持たず204 穴持たず678 戦艦ヒ級
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【種別】 超能力・技術 【初出】 三巻 名称としては五巻 【解説】 妹達の電気操作能力を利用して作られた脳波リンクで、 クローン人間特有の同一振幅脳波を利用し、脳波を電気信号として発信することで意識や思考を共有する電磁的情報網。 各ミサカ達はこれにより意識を共有しており、 テレパシー(言葉だけでなく視聴覚などあらゆる情報)を送ったり、記憶のバックアップをとったりできる。 なお妹達はオリジナルと異なり電気視認能力を持たないため、脳内電流を読み取る(=読心)ことはできない。 そのため他の個体に見られない自分だけの記憶を持つことも可能であり(ダイエット法など)、 それぞれが公開しない情報によって、精神的にも個体差が生まれうる。 ネットワークは単なる通信機構と言うわけではなく、巨大な並列コンピュータとしても機能しており、 それ自体が意志を持って各ミサカ達を操っているともいえる。 ネットワークを構成する個体が死ぬことはネットワークにとっては「ダメージ」ではあるものの、 ネットワークを構成する妹達が全滅でもしない限りは、ネットワーク全体が「死ぬ」わけではない。 故に妹達一人一人はネットワークにとってみればそれほど重要な存在ではなく、 妹達個々人も上条当麻に救われるまで個体自身の生命に価値を見出せなかった。 今でもネットワークからの支配は続いているが、ネットワークからしてみると 「体が複数ある以上、異なる選択肢を同時にとることができる」ため無理に意見・行動を統一する必要がなく、 結果的に各個体ごとに異なる行動傾向を持てるようになっている。 なお、存命している妹達は全員がこのネットワークに所属しているが、 天井亜雄製の00000号だけはなんらかの理由によって現在は接続が寸断されている。 十二巻の打ち止めの言によれば、 中心点はどこにもなく、ネットワークの中で特定の個体が『核』として存在する事にはあまり意味がないらしい。 ただし、「ラストオーダー」こと20001号だけは管理のための上位個体となっており、 彼女を介して停止などの命令を送ることができる。本人曰くホストではなくコンソール的役割を持つとの事。 つまり天井亜雄や木原数多が行おうとしたように、 打ち止めさえ手元に収めてしまえば全ミサカ個体を自由に統御できるということでもある。 逆に言えば打ち止めがファイアウォールとなっており、打ち止めを介さない命令は受け付けない。 布束砥信の妹達に対する感情インプットが失敗に終わったのは、これが原因。 失敗と言っても、どうやらネットワーク全体への伝播を阻止しただけのようで、 直接インストールされた個体であるミサカ19090号は頬を赤らめたり動揺したりと感情表現が豊か。 ちなみに番外個体はネットワークに所属しているものの、装置によって打ち止めの命令を無効化できる。 なお、ミサカたちは「クローン体であること(元の脳波が同じ波長であること)」に加え、 「学習装置を使い整頓した脳構造」を利用してネットワークを形成しているため、 波長の違う他者が無理に「ログイン」しようとすると脳が焼ききられてしまうらしい。 もっとも冥土帰しは波長を合わせる装置を開発して、 一方通行の演算能力を補助させるのに成功している(ただし情報網としてのネットワーク自体を利用することはできない)。 ちなみに冥土帰しは幻想御手事件の際に発電系能力者の最高峰である御坂美琴に脳波ネットワークについて質問しており、 この一件も開発の参考になっていると思われる。 (この時美琴は、「同一の脳波の波形パターンを一定に保つことができれば脳波ネットワークを構築できる」と分析している。) ちなみに電気操作能力を利用したネットワークのため、同系統最大能力による高出力ジャミングに脆弱性を持っている。 そのため、美琴がミサイルに対するジャミングを行った際に側にいたミサカ10777号は、ジャミングの影響で一時的に壊れた。 また、トンネルなど電波障害の発生する場所でも、ネットワークとの通信が出来なくなってしまう。 アレイスターが進める『計画(プラン)』の要でもあり、 妹達を使ったレベル6シフト計画が失敗したのもこれを見越したものに過ぎない。 なおその莫大な演算力やAIM制御などの特性から、「計画」以外にも様々な実験に利用されている。 例 一方通行の能力補助 幾つかのレベル6シフト計画への適用 ヒューズ=カザキリ顕現 エイワスの現界 etc. 【関連】 →ミサカネットワーク総体